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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

怪異の世界#39・・・前進座公演「解脱衣楓累(げだつのきぬもみじがさね)」

2008-10-20 | ワンダーゾーンの世界
前進座公演「解脱衣楓累(げだつのきぬもみじがさね)」

■日時:2008年10月18日(土)11:30~
■劇場:前進座劇場
■作 :鶴屋南北
■改訂:小池章太郎
■演出:中橋耕史
■出演:嵐圭史、河原崎國太郎、藤川矢之輔、瀬川菊之丞、他

前進座劇場で鶴屋南北の歌舞伎「解脱衣楓累」を観ました。この夏に江戸時代に流布した“累の伝説”に興味を持って、映画をみたり、円朝原作の落語を聞いたり、はては旧・羽生村の法蔵寺の累のお墓まで行ったこともありました。今回前進座で観た作品は南北が1812年に市村座のために書き下ろしたものが上演されることなく埋もれてしまったものであるそうです。それを24年前に前進座が、172年ぶりに復活初演させたものを17年ぶりに上演するという、珍しい?もの。そうした背景があるものの客は7分の入り、年齢層もボクより上の方が圧倒的に多かったです。

客席は空席がやや目立ったも、舞台の方は予想以上に面白かったです。何よりも座った席が2列目と舞台の迫力がダイレクトに伝わってくる特上の場所。(ラッキーでした)特に大詰めの絹川堤の場は、大掛かりな仕掛け(火の玉が飛ぶ、天井から雨が降る、累が浮き上がる)とともに展開される与右衛門の累殺しは、全体として見応え十分でありました。この部分を観ていて気がついたことは、以前に歌舞伎座で観た「色彩間苅豆」と概ね展開が同じであったこと。つまり“累(かさね)”となるとそういった展開が定番なんでしょうか?歌舞伎については詳しくないのでその辺りの事情は分かりませんが。(もしかしたら南北繋がりで?)最後はそこに行き着く、そんな印象を受けました。

河原崎國太郎が演じる累がお吉の死霊に憑依され一変様相が変わるのは、それがある種の型的な演技に見えるも、美人タイプの累の時と全く違い恨めしい死霊に瞬間的に変わるメリハリの効いた演技に魅せられました。一方の藤川矢之輔演じる与右衛門は、物語上では巻き込まれた感じで、累を殺害する動機が弱いように思えました。(原作の構成の問題です)絹川堤の場で逃げる与右衛門を累が霊力で引き戻す「連理引」の演技が見られるのですが、先の「色彩間苅豆」で与右衛門を演じた海老蔵が身体能力と若さを活かしたド派手な演技を見せたため、やや物足りなさを感じたが、それは役者の年齢を考えると体力的に無理というものか。しかし演技は、役者の中で一番深みがあり貫禄十分でありました。

今回の裏の主役は、坊主の空月。出家したとはいえ、それは奉公するお家が潰れたためやむなく武士の身分から坊主へと転身しただけで、出世欲や愛欲の呪縛からは彼の魂は開放されておりません。生きるために法衣を纏っているような下世話な男だ。殺したお吉の生首を首からぶら下げて行脚するとは、想像を絶する。まずもって腐敗する臭いがたまらないだろう。当時はさらし首などもあったから、生首に対する感覚が現在の我々とは違うのだろうか。とにかく空月を見ていると、聖職にありながら欲望全開で、人の表と裏、本音と建前といった側面は江戸も現代も変わらないのだということ。その時代を生きた作家が書いているので余計にリアルに感じる。職業に惑わされ人を見誤っちゃいけないのだ。

期待をしないで観に行った前進座の「解脱衣楓累」、とても面白かったので得した気分で劇場を後にしました。



◆「累伝説」に纏わる過去記事◆
怪異の世界#38・・・桂歌丸「真景累ヶ淵」(CD)
怪異の世界#37・・・「死霊解脱物語聞書」
怪異の世界#30・・・新秋九月大歌舞伎「色彩間苅豆 かさね」(新橋演舞場)
怪異の世界#26・・・三遊亭円楽「真景累ケ淵から“豊志賀の死”」(1979年)NHK・BS-2放送
怪異の世界#19・・・祐天寺・かさね塚
怪異の世界#18・・・法蔵寺・累の墓所
怪異の世界#17・・・田邊剛「累(かさね)」巻之壱&弐
怪異の世界#16・・・三遊亭円朝「真景累ケ淵」(岩波文庫)
怪異の世界#15・・・映画「怪談累が淵」(監督:安田公義)
怪異の世界#14・・・<怪奇十三夜>「怪談累ヶ淵 」(1971年日本テレビ)
怪異の世界#13・・・映画「怪談累が淵」(監督:中川信夫)
怪異の世界#12・・・一龍斎貞水・江戸怪奇夜話し「真景 累ヶ淵より 豊志賀の死」
怪異の世界#11・・・映画「怪談」(監督:中田秀夫)
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