新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

日米間の労働組合の違いについて

2014-03-01 17:01:38 | コラム
組合に対する阻害行為になる:

先ず、これから述べることはアメリカの紙パルプ産業界で経験したことであるとお断りしておく。これが日米間の違いを知る何らかの参考になれば幸甚である。

アメリカの労働組合は職能別組合(Craft union)であることは既に指摘してきた。その点を具体的に言えば、アメリカの現場には所謂紙パルプの労働組合員の他に製造の作業に関連するあらゆる種類の組合員がいるということなのだ。これが如何なる問題を引き起こすかを知ったのは、ずっと以前のことだったが、偶々工場の事務棟にいた時に原料部門に問題が発生した時だった。

そこで居合わせた会社側の製造担当者と現場に駆けつけたのだった。私は偶然にその担当者が組合員から転出してきた珍しい人物と承知していた。彼は現場に着くやいなや、事故の原因を把握して組合員にテキパキと指示をしたが、当人は現場が指示通りに動かなくても黙って見ているだけだった。それを疑問に思ったので「何故貴方は手を拱いていているだけで、手伝おうとしないのか」と尋ねてみた。

彼の答えは「現場の作業は組合員である者たちが進めるもので、会社側である私が直接手を出せば、彼等組合員の労働を阻害した行為となって、労使間の係争問題になる。故に私は成り行きを見守っていることしか出来ない」だった。私は会社側対組合の問題は多少は認識していたが、そこまで厳密というか厳格なものとは思っていなかったので、やや驚かされてしまった。

彼は言葉を継いで「仮にマシン設備全体がここで停止したとしよう。そして問題が電気系統にあって一度電源を抜かねばならない事態と判明したとしよう。その際に紙パルプ労働組合員は電源を抜いてはならないのだ。飽くまでも電機労連の者が駆けつけるまで待たねばならないのだ。それが職能別組合のきまりというものだ」と教えてくれた。

私は後刻、我が国のある大手メーカーの人事・勤労部門の権威者にこの話をして、ご意見を伺ってみた。彼は「我が国でも戦後間もなくは職能別組合制を採っていた業界もあった。しかし、今貴方が言われたような問題に直面して大いに難渋させられたのだった。そこで、現在我が国の多くの企業が採用している企業別の組合制が導入されたのだった。しかし、アメリカの紙パルプ産業界は未だにその職能別組合制を採っている。その当否を論じるよりも、そこに企業社会の考え方の違いが認められる」と解説された。

即ち、組合員はその会社の工場で仕事をしていても、飽くまでも上部組織である業界横断の職能別組合に所属していると解釈すると解りやすいと思う。W社では90年代に入ってから組合員たちに自分たちが生産した紙が日本の印刷加工の現場で如何に使われているかを見せて、品質改善の努力の資料にさせようと企画した。そして、何名かを順次に日本に出張させることにした。

その際に工場側が先ず手を打ったことは、上部組織の代表者と「出張する者たちが海外にいる間の時間給をどのように計算するか」を話し合ったのだった。即ち、工場での勤務ならば一直は8時間で簡単明瞭だが、海外ともなればどの時点から時計の針を動かすのかというのが、重大な案件だったのだ。これを別な見方をすれば、労働組合員の海外出張という先例がなかったことでもあった。これも企業社会における文化の違いの例と言えるだろうと思う次第だ。