豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

ぼくの探偵小説遍歴・その6

2024年03月03日 | 本と雑誌
 
 ぼくの探偵小説遍歴、第6回は日本の探偵小説。

 日本の探偵小説作家というと、松本清張が真っ先に思い浮かぶ。
 松本清張の中では「黒い福音」(手元にあるのは文春版全集)と「小説帝銀事件」(同じく角川文庫)が、ぼくとしてはベスト2か。短編ではわが先祖の出身地佐賀が舞台の「張込み」(新潮文庫)がいい。謎解きには興味がないので、「点と線」(新潮文庫)の他は、彼の代表作と言われている小説は読んだことがない。
 「日本の黒い霧」(文春文庫)は探偵小説とはいえないが、著者の推理作家としての才能が戦後日本の歴史に向けられた作品といえよう。昭和25年生まれのぼくは、同時代を生きた者の1人として、戦後日本に垂れ込めていた「黒い霧」をリアルに実感することができる最後の世代かもしれない。「昭和史発掘」(文芸春秋)も同様で、興味のある事件を何冊か読んだ。「日光中宮祠事件」(角川文庫)もノンフィクションだったか・・・。
   

 佐木隆三「復讐するは我にあり」(講談社文庫)は彼の直木賞受賞作で、九州で実際に起きた連続殺人犯をモデルにしたノンフィクション・ノベルズ。その後のこの手のドキュメント小説流行の先駆けとなった。    
 森村誠一も、推理小説で読んだのは「人間の証明」(角川文庫)くらいで、むしろ「悪魔の飽食」などのノンフィクションのほうが記憶に残る。「人間の証明」は舞台が東京の四ツ谷(ニューオータニ)と碓氷峠の見晴台(から霧積温泉)だったので、記憶に残っている。映画化された時のジョー山中の主題歌もよかった。
 最近、というよりぼくが最後に読んだ中で一番のおすすめは、森下香枝「真犯人--グリコ・森永事件「最終報告」」(朝日文庫、2010年)。あの事件の捜査をめぐる大阪府警、京都府警、滋賀県警の確執が印象的だった。リークもあったのだろうが、取材力に感嘆した。著者は日刊ゲンダイ、週刊文春の記者を経て朝日新聞記者になったと紹介がある。

 
 松本清張「黒い手帖」(中公文庫)、江戸川乱歩・松本清張編「推理小説作法」と木々高太郎・有馬頼義編「推理小説入門」(光文社文庫)、佐野洋「推理小説実習」(新潮文庫)などは、いずれも推理小説の創作技法を伝授するような形式をとりながら、内容の多くは各推理作家の推理小説観ないし社会観を伝えている。
 佐野洋「検察審査会の午後」(光文社文庫)は、雑誌連載時に毎回検察審査会事務局の助言を受けて執筆したとある。最近(といっても10年以上前になる)では高村薫「マークスの山」(講談社文庫)が圧巻。これも助言を受けた元刑事への謝辞がある。

   
 まったく傾向は違うが、一時期、小峰元や辻真先の「学園探偵」ものを読んだ。
 小峰は「アルキメデスは手を汚さない」、「ソクラテス最後の弁明」(講談社文庫)など、題名と和田誠が描いた表紙だけは印象に残っているが、話の中味は忘れてしまった。忘れてしまったけれど、3作目くらいまで読んだ記憶がある。小峰は江戸川乱歩賞を受賞したのだったか。
 
 辻真先「仮題・中学殺人事件」(朝日ソノラマ文庫)も小峰と同じく「学園推理もの」とでもいうべき推理小説。最終ページに「1976・10・31(日)、Good! 93点」と書き込みがある。よかったのだろう。朝日ソノラマ文庫のラインアップを見ると、第1作が「宇宙戦艦ヤマト」で、辻のほかにも、光瀬龍、加納一朗、福島正実らの作品が並んでいる。どれも面白そうな感じがする。なお、辻の本職は放送作家だったようで、テレビ番組のタイトルに彼の名前を見つけることが何度かあった。
 辻には「たかが殺人じゃないか--昭和24年の推理小説」(創元推理文庫、2023年)という新作があることを知った。内容紹介を読むと、昭和25年生まれのぼくには面白そうである。 旧制中学が新制高校に移行する時期を舞台にした「学園もの」のようだ。

 ※東京新聞3月7日夕刊に辻真先へのインタビュー記事が載っていた。現在91歳だそうだ! 先日の漫画家の死亡をきっかけに話題になった原作者と脚本家との関係について語っている。
 辻は、子どもの頃にぼくも見ていたテレビアニメ番組「鉄腕アトム」の脚本を書いていたという! その経歴の長さにまず驚いた。時には手塚治虫の原作が間に合わないので、辻が(手塚と協議しながら)オリジナルの脚本を書いたこともあったという。脚本、脚色は原作者と脚本家とのクリエーター同士の信頼関係があって成り立つものであり、その間にサラリーマンにすぎないテレビ局のプロデューサーが介在するようになったことに問題の根がある旨を語っている。
 草創期から長い間テレビの現場にいて経験を積んできた人の発言だけに説得的である。しかしサラリーマンであるテレビ局プロデューサーが、原作者や脚本家よりもスポンサーの意向を忖度し優先する現状が改まることはないように思う。 (2024年3月8日 追記)

 海外では、ジェームズ・ヒルトン「学校の殺人」(創元推理文庫)、ライア・マテラ「殺人はロー・スクールで」(同、読み始めたものの面白くなかったので読んでいない)など。コリン・デクスター「森を抜ける道」(ハヤカワ・ポケットミステリ文庫)などのオックスフォード大学が舞台になった「モース警部」シリーズも、学寮長やチャプレン人事をめぐる殺人事件などの話題が多いから「学園もの」といえるか・・・。
 テレビドラマでは、モースの死後、部下だったルイスが警部になってからの「ルイス警部」や、モースの若かりし日々を描いた「刑事モース」のほうが、ぼくには面白く感じられた。

 2024年3月3日 記
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