豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

虎に翼(その2)--明治法律学校の教材

2024年04月09日 | テレビ&ポップス
 
 「虎に翼」(NHK朝の連ドラ)の補遺を。

 ドラマの中の法律書専門書店の書棚に貼られた宣伝ビラの中に、末弘厳太郎「民法講話」を見つけた。残念ながらぼくはこの本は持っていないが、戦後になって高弟の戒能通孝さんが改訂した3巻本(岩波書店、昭和29年)を持っている。
 同じく劇中で、法学生(三淵家の書生?)の本箱か机の上に、穂積重遠「民法読本」らしき本が置いてあるのを見た(ような気がした)。この本はぼくも持っている(日本評論社刊)。手元のあるのは昭和19年版だが、時代を反映してか、表紙も本文も粗末な紙質である。
 なお、書店の店内では、牧野菊之助「日本親族法論」を宣伝していたが、女性法律家の卵が学ぶ親族法の教科書といえば、当時なら穂積重遠「親族法」(岩波書店、1933年)だろう。あるいは、あの頃牧野は明治大学で教鞭をとっていて、彼の本が教科書に指定されていたのだろうか。 
  
       
       

 明治大学関係の家族法の出版物では、「司法省指定私立明治法律学校出版部講法会出版」刊の柿原武熊「民法親族編講義(完)」という本を持っている。本自体には出版年度の記載はないが、Google で調べると、明治民法が制定された明治31年の翌年に出版された講義録のようである。表紙扉の著者肩書きによると、柿原は「控訴院判事」だったようだ。
 「司法省指定」というのは仰々しいが、「私立」というところには自負が感じられる。日本の近代家族法学は私立法律学校の教師たちによって出発したという評価もあるくらいである(山畠正男・判例評論195号以下、1975年)。
 もう1冊、島田鉄吉著「親族法(完)」(明治大学出版部発行)というのも持っている。表紙の扉には「島田鉄吉君講述」とあり、島田の肩書は「行政裁判所評定官」となっている。これも明大での講義録だろう。この本も発行年度の記載はないが、大正4年に出た大審院「婚姻予約有効判決」への言及があるから、大正4年以降の刊行だろう。ネット上の古書店目録では、大正8年刊の同書が売りに出ている。

 柿原の本では、近親婚禁止規定について、近親婚禁止を正当化する事由をあれこれ述べていて印象的である。最近の家族法教科書では、理由ともいえないような簡単な理由しか述べられないことに比べて印象的である。おそらく本書が授業の口述を筆記したものだからだろう。戦後の本でも、中川善之助の「民法講話 夫婦・親子」(日本評論社)や、「家族法読本」(有信堂)など、講演で語ったものを書籍化した本では、近親婚禁止の理由についても饒舌に記されている。内容の当否はともかくとして。
 島田の本は、日本の妾制度を批判し、一夫一婦制を明治民法の基本原理の一つとして強調していて、印象的である。明治民法になってからも日本の現実社会では妾を囲うことが普通に行なわれていたことを考えると(黒岩涙香「畜妾の実例」萬朝報、後に社会思想社)、印象的である。島田の近辺にもそのような男がいたのかもしれない。
 それと、上記の婚姻予約有効判決のように大審院の判例が紹介されていることも印象的である。教科書の中に判例が登場するのは、大正末期の末弘厳太郎以降のことかと思っていたが、大正4年の判決が教科書に出てくるとは意外だった。著者が現場の裁判官だったことの影響もあるだろう。柿原や島田といった実務家が私立法律学校で講じていた授業では、たんなる理論だけでなく判例についても教えられていたのだろう。

 「虎に翼」では、入学早々に模擬裁判が行われ、主人公が実際の裁判を傍聴に行ったりしているところを見ると、戦前の法学教育のほうが、(法科大学院以前の)戦後の法学部教育よりも実務的な色彩が強かったのかもしれない。今後の番組で授業風景も紹介されるだろうから、しっかり見てみよう。

 2024年4月9日 記
 

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