カフェテーブル

2010-08-27 08:32:16 | お宝
12年前、京都でカフェを開いたときに買ったテーブル8台。
買ったと言っても、パリの店頭で買ってきた訳ではない。
パリのカフェテーブルには定番があり、それは専門の店でしか扱っていない。

パリには親友の佳子が住んでいた。佳子に問い合わせると、
佳子は住まいに一番近い(窓から見える!)カフェ・ドゥーマゴに行き、
テーブルを扱っている専門店の名を聞いてきてくれた。
次に佳子自身がその店に行ってサイズと値段を調べてイラストで私に知らせてくれた。

12年前は丁度、日本でも世界のあちこちでも、カフェがブームになり始めていた。
在庫は少なく、注文してから何ヶ月か待つことになりそうだった。
私の希望は12台だったが、現在ある8台をとりあえず買うことにした。

佳子にそれを伝え、佳子が店に買いに行き、
フランスから日本に荷物を送って支払いの代行をする商事会社に委託してくれた。
商事会社と何度か電話で連絡を取ってから、ようやくテーブルは京都に届いた。

ピカピカの真鍮の枠に大理石模様のアクリル台に鉄の三つ足。
頭に描いていたパリのカフェと同じテーブルが私のカフェに揃った。
今はもうカフェという名の形態は、文化混淆の素人的イージーさがふつうになっているが、
12年前私のカフェはパリの再現であることにこだわった。
それでも三年しか続けられなかったフレンチカフェ。
今は玄関や台所や部屋のコーナーでひっそりと個性を殺して次の出番を待っているテーブル。
次の出番?さあ、それは、…。

私のカフェの経営が苦しくなった時、佳子は“いい加減やめれば”と手紙に書いてきた。
私はそれに返事をしなかった。佳子は夫の遺産の相続が片付いてにわかに自信がついたのだと。
二ヶ月後、機嫌を直して経営を立て直す話など書き送った私に、佳子の急死が知らされた。
私の手紙は間に合わなかった。それから一年後、私はカフェを閉じた。

テーブルを日本に送るまでパリの街を駆け回ってくれた友、
毎日真鍮を磨いてくれたアルバイトのギャルソンたち、
日々入れ替わり深煎りコーヒーを飲んでくれた京都の自由人たち。
彼らのの息を刻んだテーブルは誰かに譲ったり、また買い戻したりすることはできない。

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5 コメント

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Unknown (老後は京都で)
2010-10-11 03:17:23
これは、「京都が好き」の続編そのものですね。石井様のこだわりのカフェ、行ってみたかったナ~
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Unknown (Mariko Ishii)
2010-10-11 09:59:42
私も来て頂きたかったナー。
カフェは河原町夷川上るの、今はクリニックになっている場所にありました。二月から載せる予定の話は、その通りカフェのことです。
カフェのかわりに、またブログを訪ねて下さい。
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Unknown (木下トモオ)
2013-03-12 12:27:36
とてもステキなお店でしたね。ようやくこのブログを発見いたしました。貴女のお店には当時煎茶を習っていた友人に連れられて伺った事があります。その折に撮影させて頂いた拙い白黒写真が数枚、真鍮のコート掛けに掛かったコート、コーヒー豆の棚の上の猫、座って店内から外を眺めた様子などがございます、よろしければお渡ししたいのですが。いかがでしょう?
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Unknown (Mariko Ishii)
2013-03-12 20:03:57
木下様
胸がいっぱいになりました。
写真頂戴したく存じます。とくに猫の写真は。みや子(猫)は二年前に他界し、今は鴨川べりに眠っています。
次回確実に京都に行く予定があるのは、五月の建仁寺の襖絵公開の折です。その前あたりにまたコメント欄に予定など書かせて下さい。あるいは別の方法があれば。
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Unknown (木下トモオ)
2013-03-14 08:22:02
お返事したつもりが反映されていませんでした。すみません、改めて。

猫ちゃん残念でした。僕も鴨川に出向く際には思い出します。写真どうしましょう。ネガをスキャンしたデジタルデータと印画紙どちらでもご用意出来ます。私が管理しているパブリックアカウントに一度ご連絡いただけましたら、プライベートアカウントからご返信いたします。いかがでしょう。

info@destinationshop-for-travellers.com
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