ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

WEBサイトプロデューサーの憂鬱

2011年06月19日 | ネットビジネス
前の会社の同僚からランチに誘われ、愚痴とも相談ともつかない話を聞いた。会社を辞めようか悩んでいるという。まぁ、そんな話はどこにでもあるものだし、僕だって仕事がうまく回っていなければ24時間中20時間くらいは「辞めてやるー」と考えたりもするので、改めて書くほどのことでもない。

ただそこにそうした個別の要件ではなく、組織の構造的な問題のようなものを感じたので、ちょっと残しておこうと思う。

彼女の仕事はWEBサイトのプロデューサーだ。僕がそのサイトを含めたいくつかのサービスを担当するチームの面倒を見るようになってしばらくして、「経験者」として入社してきた。それから同じチームで2~3年一緒に仕事をして、組織変更があってチームが別々になり、そのうち僕が別会社に移ったので、実際に一緒に仕事をした期間は長くない。その間、彼女はそのサイトを担当し続けた。

彼女の成果は十分なものだ。

彼女の入社当時、つまり僕のチームに来た当時、そのサイトのPV数は決して高くなかった。Y!をはじめ各ポータルサイトにも同ジャンルのサイトはあったし、そのジャンル専門のサイトも多数あり、Y!とOが抜けだした形で、続いてB、その後に団子状態でいくつかのサイトが存在しているといった感じ。残念ながら団子の中でも決して上の方ではなかった。そうなればもちろん広告収入も多くはない。

彼女にプロデューサーが代わったのを機に、いくつかやり方を変えることにした。

1つは「考え方」を変えること。これまでは自分たちはサイトをプロデュースすることが仕事であって、営業面は「広告営業」の仕事という考えに染まっていた。いいサイト・いいサービスを提供すれば、利用者が増えるんです。そうなれば自然と広告収入も増えるでしょう。そんな感じだ。

それを広告営業の連中と話をし、どうすれば収入が上がるサイトになるか、サービス側でどのような協力をすれば収入基盤を築けるかを検討した。「そう言ってくれるなら、何か一発やりましょう!」当時の広告営業の担当者はそう言ってくれた。男気溢れる漢だ。持ち込みの企画を共同で考えたり、両者のパイプを活かしながら、いろいろな提案を実施したりもした。

それは、それまでは収入が伸びないから新しいサービスへの投資を諦めるといった考え方だったものを、新しいサービスはやる、そのために必要な投資を回収できるように収入基盤も作り上げるという風に変えたかったからだ。こじんまりとまとまるのでなく、チャレンジし続けたい、そんな風にしたかった。

またこれまでのサービスについても、これまでの「待ち」の姿勢から業界とのパイプを積極的につくるようにした。WEBサイトは基本的にはメディアである。メディアパワーがあれば、ほおっておいてもそこに掲載をして欲しいと考えるコンテンツ業界の人たちは寄ってくる。しかしメディアパワーが弱ければ、攻守交替、全く相手にしてくれない。

インターネット黎明期であれば、まだまだサイト数も少なく、サイトへの掲載依頼も多かったのかもしれない。しかし様々なサイトが溢れ、結果的に団子状態から抜け出せないサイトでは「業界」とのつながりも弱くなり、掲載できるコンテンツも少なくなっていた。まずは業界との関係を「再構築」すること。「人」と「人」との関係を作り、あるいは他のサービスや企画とのバーターを利用しながら、コンテンツの質を高めることを目指した。そのためにはそのサイトだけではなく、僕のチームが担当していた他のサービスとの連携も図りながら、総合的に魅力を感じてもらえるようにした。そうして今まで出してくれなかったコンテンツホルダーも素材を提供してくれるようになった。

そしてもう1つ、彼女に対して、明確かつチャレンジングな「目標」を立てることにした。

当時のPV数は、Y!とOが抜け出し、Bがきて、後は団子状態。社内での目標値は前年比○%増といった味も素っ気もないもの。これではやる気が出るはずもない。そこで僕が彼女と話をしたのは、まずは3番手のサイトBに追いつくことを目標にしようというもの。そのために必要なサービスがあれば立ち上げればいい、攻めの姿勢を貫こう、と。当時、サイトBはうちのサイトの3倍近いPV数をほこっていた。それに追いつくというのだからそれだけでもかなり「高い」目標だ。

「無理だ」「無理だ」とは口では言いながら、彼女が丁寧にきっちりとサービスを作り上げていってくれたことや業界とのパイプを育ててくれたこと、導入した新サービスの効果もあって、PVは上昇をし続ける。最初のターゲットであったBを追い越し、今では、Y!やOには及ばないものの、不動の3番手のポジションを獲得。彼女が来た当時に比べてPV数は10倍近くも伸びたとのことだ。

SNSやBLOGといったソーシャルメディアにトラヒックが移行していく中、WEB1.0型のWEBサイトが10倍のPV数に伸びたことは自慢していいと思う。その結果、いまでは業界からの売り込みが多くなり、こちらが取捨選択していかねばならないほどだという。そこまで業界内での地位を高めた彼女の成果は評価されてしかるべきなのだ。

しかし社内では必ずしもそのように評価されていないようだ。

一方的に彼女の話を聞いただけだから、実際はどうかは分からないのだけれど、僕が当時いたときの体質なども含めて考えると、そこには構造的な課題があるように思う。

ここ10年でWEBメディアの世界は大きく様変わりをした。WEB2.0、CGM、Twiiter、Facebook、ソーシャルメディア…などなどいくつかのキーワードが象徴するように、ポータルサイトやマス向けに情報発信を行うサイトが主流だった時代からユーザー参加型・発信型のメディア中心の時代に。情報の選択権はユーザーに移行し、発信すれば誰もが見てくれるという時代ではなくなった。

ポータルサイトにとっても、WEB1.0的なメディアからどのようにユーザーとの関係を構築するか、ソーシャルメディア的な要素をどのように組み入れるかが求められるようになった。

そんな状況では、当然のことながら、WEB1.0的なサイトのPV数が伸びたからといって、社内の関心は高くない。今の時代にあった新しいサービスを作り出すことや自分たちが持っているソーシャルメディア風のサービスをどう伸ばすかというところに関心がいきがちだ。

しかも景気後退~3.11ショックは広告収入を大きく低下させただろう。PV数の伸びが収入と連動するわけではない。そうなると余計に話題になりそうな「ソーシャルメディア」的なものに注目がいくようになる。既存のサービスを忘れて、新しいものばかりに目を奪われる。現状のサービスの価値やそれを高めるための努力といったものが置き去りにされるのだ。

そしてもう1つ。

人の流動が少なく、ポータルサイトのメンバーが固定化してしまっているためでもあるのだろうが、目標を達成することに対して意識の低さ、あるいは「絶対評価」と「相対評価」の混用があるのではないかと思う。

固定化してしまったメンバーの中には、ある種のヒエラルキーや関係性ができてしまっている。そのことは組織を維持するためにはプラスに働くことも多いだろう。その一方で、そうした関係は、事業目標を達成できたかどうかとは関係なく「維持」される。

外様の者が成果を上げたからといってそのヒエラルキーの中心になれるわけではない。逆にメインストリームにいる者は成果に関係なくその位置に居続ける。ベンチャーになりきれなかったエスタブリッシュな企業の子会社の限界か、そうした社内文化を受けて、「絶対評価」であった評価基準がいつの間にか「相対評価」のように扱われることになる。

年棒制の社員にとってはこの評価基準の曖昧さは許されるものではないだろう。

他にもいろいろ不満はあるようなのだけれど、それはまぁ、どこにでもある話。ここに上げた2つの問題は、個人的な問題というよりは組織が抱えている構造的な問題のような気がするのだ。

彼女がどうするのかはわからない。話をして、ガスが抜けて、また同じように仕事をこなしていくかもしれないし、あるいは本当に辞めてしまうかもしれない。もし本当にそうなるのだとしたら、あまりにも寂しいと思う。

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ガンガンガン速)
2011-06-24 04:20:11
こんにちわ
お仕事ができる女性、決断が気になりますが、 オンライン業界の変化、ここ10年はまさに変化の時代だったように思えます。
返信する
Unknown (beer)
2011-06-24 20:57:08
ネットの世界の10年は凄いですね。でも早すぎて、ついてこれない人たちも多数。
本当に革新的でメジャーなサービスは少ないかも知れません。でもそういうのを目指す熱さがこの10年を支えたのかな、とも思います。
返信する

コメントを投稿