ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

坂の上のクラウド:データセンターをめぐる問題、コロケーションかクラウドか。

2011年08月16日 | ネットビジネス
SIerの営業にとって「クラウド」との付き合い方はなかなか難しい。理由はいたって単純だ、お客様自身が構築するオンプレミス型の場合、1つのシステムで何千万、何億という受注が上がるが、クラウドになった瞬間、月額料金で何十万から2、3百万のレベルで止まってしまう。5年間でトータル収益が同じだったとしても、その瞬間の受注額は大幅に低下する。

そもそもクラウドの場合、特にプライベートクラウドの場合、オンプレミス型のシステム構築で発生する「リソース」のムダ(使われていない部分)を、他者と共通化することでどう「省く」か、どれだけ「効率化」するかがコスト削減のポイントとなっている。

そう考えるならば、オンプレミス型からクラウド化に受注機会が変わることで、得られる収入は「減る」ことが前提になると考えたほうがいい。

そうしたオンプレミス型でのシステム構築か、クラウド型のサービスかと同様に悩ましい問題がある。それがデータセンターをめぐる問題だ。

SIerのビジネスの1つに「データセンター」を提供するというものがある。オンプレミス型のシステム構築があくまで「お客様資産」だとすると、データセンターを提供するというのは、自社資産を「貸し出す」形式。クラウドと同様、自社資産を月額のサービス利用として提供するビジネスモデルだ。もちろんデータセンターを提供する狙いの中には、そこで預かる情報システムも自分たちで構築する、そこに設置された情報システムの監視などを行うというのもあるだろうが、ここではそのことは切り離して考える。

同様のビジネスモデルであるデータセンターの「コロケーションサービス」と「クラウドサービス」の提供の場合、果たして提供者側として考えるならば、どちらが望ましいのだろうか。

仮に延床面積1,000㎡データセンターを持っていたとして、それをコロケーション用として提供することと、クラウド用サーバを設置するために自社で利用した場合とで比べてみよう。

仮に19インチラック1架設置するのに必要なスペースを1㎡とする。通常の19インチラックというものがH:1800×D:900×W:700とすると、その前後のスペースなども見るとおおよそ1㎡くらいになる。とすると、1000㎡のデータセンターに設置できるラックは1000架。コロケーションサービスで得られる収入を1架あたり30万円とし、諸々の経費を含めた原価を9000万円(300架相当)だとしよう。

データセンター事業として考えるのであれば、300架9000万円が損益分岐点となるため、300架以上のコロケーションサービスの提供によってビジネスとしては成り立つこととなる。が、同時に、コロケーションサービスがあくまで「場所貸し」である以上、1000㎡1000架以上のコロケーションサービスの提供はできない。つまり得られる収益はMAXでも、1000架×30万円/月=3億円が上限となる。

これに対し、クラウド事業としてこのデータセンターを使った場合はどうなるか。

同じく1000架の19インチラックを用意、そこにサーバを詰め込み、仮想化を用いて複数のVMを提供したとしよう。原価はデータセンター事業と同じく9,000万円/月だとしてもそこから得られる収入は全く違う。

コロケーションの場合は、19インチラックの中に搭載できる「物理サーバ」数に限界がある。仮に1架あたり35台のサーバを搭載したとすれば、35,000台のサーバしか搭載できないことになる。これがクラウドの場合、仮想化技術を用いて物理サーバ上に複数の仮想サーバ(VM)を存在させることになるので、お客様へ提供できる仮想サーバ(VM)の数は物理サーバ数よりはるかに多くなる。

コロケーションサーバでは物理的な制約から1000架35,000サーバしか提供できなかったものが、クラウドではその同じ面積の中でその何倍もの(仮想)サーバを提供できることになる。仮に物理サーバのリソースが1/5しか使われていなかったとするならば、仮想サーバを5台設置できることになる。同じ物理サーバで5倍の収益が得られるのだ。

近代経済学の世界では、生産活動に必要な三要素として「金融資本」「人的資本」と並んで、土地や設備といった「物的資本」が挙げられる。このコロケーションサービスとクラウドサービスを比べた場合、この土地や設備という「モノ」に対する投資効果が格段と高くなるのだ。

同じ土地、同じラックの中に設置された物理サーバ上に5倍の仮想サーバを設置すれば、同じ資本投下でも5倍の収益を得ることが可能となる。またコロケーションサービスで現行の2倍(7万台)のサーバを収容しようとすれば、2倍の投資が必要になるが、クラウドであれば、物理サーバのCPUやメモリを取り替えるだけで済むかもしれない。投資効率がはるかに高い。

SIerの経営的観点で考えるのであれば、クラウド事業を強化したいというのもうなづけるだろう。

しかしこうしたことは、参入障壁の低さの裏返しでもある。莫大な資本投資が必要なデータセンター事業は、大手SIer、キャリアが中心となった。しかし仮想化をベースとしたクラウド事業であれば、少なく、分散されたスペースでも提供が可能なことを示している。コネクティビティが保証されれば、それこそ国内である必要もない。

キャリアはネットワークとのコネクティビティの優位さとデータセンターの堅牢性からクラウドへと参入をし、ハードウェアベンダーはハード面でのより効率さ安定性を武器に参入する。ソフトウェアベンダーは仮想化技術のチューニングの良さや上位アプリケーションの使い勝手をアピールし参入する。

「物理的な場所」という制約条件が弱くなったことで、また「ソフトウェア的な要素」が強くなったことで、クラウドをめぐる競争は非常に厳しくなったのだろう。そしてその中で勝者になるためには、より多くの利用者を確保すること。つまり「面」をどう押さえるかという戦略が重要なのだ。

またそのことがエンドユーザーにより安価でより品質の高いクラウドの提供にもつながることにもなるのだ。



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1 コメント

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プライベートクラウド (プライベートクラウド)
2011-12-19 19:24:32
まぁーどのぐらいプライベートクラウドがコストダウンに貢献できるが問題ですね・・そこが一番大事かも
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