ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

【読書】なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか / 牧野知弘

2012年10月14日 | 読書
ちょっと地方のビジネスホテルのマネージメントについて調べようと思い、手に取った一冊。業界の人からすると当たり前、他の業界の人間にとっては情報を整理する分にはお手ごろの一冊。

なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか / 牧野知弘



【要約&まとめ】

確かに僕が子供の頃は「ホテル」に泊まるというのは一種特別な「ハレ」の意識があったけれど、今ではそうではない。一泊4千~5千円だせば泊まれるビジネスホテルが氾濫し、終電を逃したサラリーマンや台風で電車が止まった人が利用するなんてことも当たり前のようにある。

1980年代をピークに旅館業が棟数・客室数ともに減少しているのに対し、ホテルは大きく伸びている。そうしたホテルの拡大を促進した背景には、1)日本人のライフスタイルが西洋化したこと、2)ホテルそのものが「ハレ」の場ではなく、「宿泊特化」型のビジネスホテルが普及したことが上げられる。

またバブル経済以降、外資系高級ホテルの進出が進み、旧御三家(帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ)を含めた業界の構造は大きく変化することになる。それまでの旧御三家と地域の顔役が中心となって運営してきた地方の「おらが」ホテルという構造から、高級ホテルとそれに続くプチ高級ホテル、チェーン店化したビジネスホテルと地方ホテル。利用者のニーズが多様化・細分化していく中で、ホテル業界の構成も大きく変わりつつある。


■ネットの存在

ネットの存在はホテル業界にとっても大きなインパクトを与えた。「楽天トラベル」のような宿泊予約サイトの登場によって、利用者は事前に料金や施設・サービスの比較が可能となり、また必要なときに予約することが可能となった。その結果、ホテル側にとっては、1)お得意様向けであった「コーポレート(優待)料金」がなくなり、2)「口コミ」への返信に追われるようになり、3)なかなか予約が埋まられないという状況が発生した。

ホテルとは1日1日抱えている部屋(在庫)をどのように埋めていくか・捌いていくかによって成否が決まる。通常料金で全てが埋まれば問題ないが、空室があっても固定費は変わらない以上、売れ残るよりは値引きをしてでも空室を埋めたほうがいい。しかし宿泊予約サイトを通じていつでも予約できるようになった結果、当日の夜、ギリギリまで待って、値下げしたところで予約をするという利用者が増えている。



■ホテルにとっての経費削減

ホテル業は1日の販売できる部屋数が決まっている(収入の上限が決まっている)以上、コスト削減は大きなテーマとなる。ホテルの売上高における人件費の割合は、シティホテルで40%、ビジネスホテルでは15%程度。チェーン店系のビジネスホテルなどは正社員の人数を絞り、アルバイトを活用することで競争力を出している。また自動チェックイン機の登場は、フロント業務のコスト削減を実現した。

営業費用の大きな比率を占めるものに「水道光熱費」がある。これらの利用の主導権はお客様にあるので、削減は難しい。「大切な地球の資源を守りましょう」といった標語でお客様のEco意識に訴えかけたり、シャワーに「節水コマ」を取り付け水の出を抑制し、トイレの自動洗浄装置を取り付けるなどで削減に努めている。

電気代については、お客様の部屋の施錠にあわせて電気や空調を制御するシステムの導入や共用部での節電、LED電球化などで抑制が可能。またBAS/BEMSなどを通じて「見える化」することによって、障害の事前・早期発見が可能となり、また適正な設備導入なども可能となる。

「税金」の払いすぎを行っている場合も少なくない。ホテルの場合、建物と土地との別れるが、償却資産の申告を両方で行っている場合もあり、そういった誤りを訂正することで、正しい納税となる場合もある。

また年を経れば当然事業環境は変化する。管理要員の適正化や電気設備の法廷点検を昼間に実施する、特殊清掃の内製化など、現在の事業環境に合わせて見直すことによってコスト削減が実施できる場合もある。

ただし経費削減の中には、減らしてもよい経費と減らしてはいけない経費がある。お客様からの評価が下がるような減らし方は行ってはいけない。


■ホテルの運営形態

ホテルの運営形態には大きく3つある。

1)所有直営型

土地建物の所有者がホテルを経営するタイプ。古くからの地方ホテルの多くはこのタイプ。また帝国ホテルやオークラ、ニューオータニなどの老舗ホテルもこのタイプ。

このタイプでは、ホテルの「売上」から「運営費用」を差し引いた「GOP(Gross operating profit:営業粗利益)」は全てホテルオーナーに帰属する。オーナーはこのGOPの中から設備を維持するためのコスト」、什器備品などの「FFE」、「建物修繕費」などの「保有コスト」を負担する。

2)運営委託型

土地建物を主有するオーナーがホテルの運営会社を設立し、大手ホテルなどに運営を委託するタイプ。

運営会社を所有するオーナーに「GOP」は帰属するが、その中から各種「FFE」や「保有コスト」、更には「委託費用」を負担することになる。

3)賃貸借型

土地建物のオーナーは自らホテル運用を行うことはなく、ホテル会社に土地建物を賃貸借するというもの。この場合、オーナーの収入は「賃貸借料」のみとなる。ホテル事業そのものの「収入」は、オーナーとは別の運営会社に帰属し、運営費用を負担する。「FFE」のコストなどは契約によりけりで、ホテル側が持つ場合もあれば、土地建物のオーナーが負担する場合もある。


ホテルの収入は

「客室数」×「客室稼働率」×「ADR(平均客室単価)」

で決まる。これに対してコスト構造は「運営費用」として、

人件費:15%~20%程度
清掃費用:10%程度
水道高熱費、アメニティ費用:7%~10%程度

これらの運営費用を引いた「GOP」は、優秀なビジネスホテルでは70%、一般的には50%を超えていれば合格といえる。

これに運営形態の違いによって、「委託費用」、建物の「維持管理費」「修繕費」「FFE積立費用」「税金」などを負担することになる。

ただしこれらの費用の多くは「固定費」だ。つまりこの固定を賄うだけの「客室稼働率」を実現すれば、それ以上の客室についてはいくらで提供しても純利益となる。値下げしてでも客室を販売するというのは、必ずしも空部屋が多いからだけではない。

今後のホテル経営を考えた場合、単純に「安ければいい」というわけではない。「ブランド力」×「ロケーション」×「ハードウェア(設備、デザイン)」×「ソフトウェア(運営業務)」での満足度と「価格」とのバランスが大事なのだ。

【感想】

東京にいるとまだまだホテルが増えていきそうなイメージがある。高級な外資系ホテルも進出してくるだろうし、東京駅ステーションホテルでは1泊80万円のスイートルームも用意されている。オフィスビルの稼働率が伸び悩む中、ビジネスホテルの進出も少なくない。

しかし地方のビジネスホテルはどうだろう。これだけ不景気が長引くと、海外からの観光客が訪れるような目玉となる観光地がないと、、利用者が増えるようには思えない。そうすると縮小していくパイをどのように取り合うかということがテーマになるのだろうが、すでに価格競争で疲弊しているホテルも多い。

この本でも指摘されているように、それではどのように独自の価値を提供するか、ロケーションは簡単に変えられない以上、それ以外の要素でどのような工夫が可能かということになるのだけれど、この著ではそれに対しての参考事例はあまりない。

まぁ、実際にその土地土地で置かれている状況や利用者のニーズも違うだろうから、その当たりは自ら見つけなさいということなのだろう。

▼具体的なコストの削減ではこういう取組みが必要という例

ホテルに学ぶ“驚異の清掃・節約術”! 遮光カーテンが外側!? - トレンド - 日経トレンディネット


なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか / 牧野知弘

コメントを投稿