ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

ベルリン・天使の詩:ヴィム・ヴェンダースが描いた1つのベルリンへの想い

2010年01月02日 | 映画♪
「ベルリン 天使の詩」再見。ヴェンダースの映画が眠いのは仕方がないことだとして、それでもどうしてもその良さがピンとこなかった作品が「ベルリン 天使の詩」。おそらく日本でもっとも有名なヴィム・ヴェンダース作品であり、ニコラス・ケイジとメグ・ライアンの演じた「シティ・オブ・エンジェル」の元ネタにもなった作品。2009年の締めにもう一度見てみたのだが…

【予告編】

Wings Of Desire - Original Trailer 1987


【あらすじ】

ベルリンの街。廃墟の上から人々を見守っている天使ダミエル(ブルーノ・ガンツ)がいる。天使の耳には、地上の人々の内心の声が聞こえる。天使の姿は子供たちには見える。コロンボ刑事役で親しまれているアメリカの映画スター、ピーター・フォーク(本人)がこれからベルリンで撮影に入る映画の脚本を読んでいる。街の中のさまざまな人々の肉声。ダミエルは、親友の天使カシエル(オットー・ザンダー)と、今日見た自然や人々の様子について情報交換し、永遠の霊であり続けながら人間ではない自分にいや気がさしている。図書館は天使たちの憩いの場だ。老詩人ホメロス(クルト・ボウワ)が失われた物語を探している。サーカスに迷いこんだダミアンは、空中ブランコを練習中の美女マリオン(ソルヴェイグ・ドマルタン)を見て一目惚れをする。橋のたもとで起こった交通事故で死にかけている男に息をふきかえさせるダミエル。カシエルは、ホメロスにつき添ってポツダム広場を歩いている。ピーター・フォークの出演しているスタジオには様々な人がいる。ダミエルはカシエルを呼んでサーカスの公演を見にゆく。マリオンを見つめるダミエル。最後の公演を前に死の怖れを語るマリオンの肉声。ロック・コンサートで踊るマリオンの手にふれるダミエル。夜明け、ピーター・フオークはダミエルに人間になることをすすめる。壁をこえてノーマンズランドを散策するダミエルは、マリオンへの愛をカシエルに告白する。人間に恋すると天使は死ぬ。彼はカシエルの腕の中で死んだ。西ベルリン側の壁のそばで目をさましたダミエルの目の前は、モノクロから色彩の世界に変わっているのだった。(「goo 映画」より)

【レビュー】

荘厳な雰囲気に詩的な台詞。前衛的な雰囲気をかもし出したカット割り…その洗練された様はとてもファンタジー作品とは思えない。この作品をそうしたファンタジーの域を超えたものに仕上げているもう1つの要素が、ある冷戦時代にしかありえなかったベルリンという都市の歴史性に着目したところだろう。

その当時の「ベルリン」という都市が背負っていたもの――それが「歴史」が断絶された街だということだ。

ダミエルやカシエスら天使たちは悠久の歴史を見届けていた。長い歴史の中では様々な事柄があったであろう。しかし今、彼らが見つめているものは「孤立した人々」だ。1つの国家・国民が分断され、誰もが分断され、隣の人と打ち解けあうことなく、不安になり、家族でさえも息子のことが理解できなくなっている。

こうした「孤独な人々」を描くだけであれば、「NY」だろうが「東京」だろうが同じかもしれない。しかし一方で、ヨーロッパの歴史や伝統的な風景が残りつつ、第二次世界大戦後の「廃墟」の風景が残る場所、未だに「壁」という形で冷戦の残骸に縛られつつ「孤独な」大衆社会へと変貌しつつある姿は、やはり「ベルリン」でしかできなかったのだろう。

NYなら歴史性などないまま「欲望(エゴ)」と「商品」「精神科医」によって彩られ、東京なら「ワーカーホリック」によってその孤独を埋め合わそうとする。

そうした歴史の断絶、分断された連続性は、時代の変化についていけない人々を置き去りにしていく。

かっては英雄伝が皆を熱狂させ、一体化させ、広場を人々が埋め尽くした。
英雄は歴史となり、ホメロスのような語りべが語り伝えることで、人々はそこに無垢な未来を想像した。

しかし冷戦構造による民族の分断と歴史の否定は、彼らのよりどころを喪失させた。

「あきらめだと?
 私があきらめたのでは、人類は語りべを失う
 語りべを失うということは、人類の子供時代もなくなることだ」


物語は後半、ダニエルが人間となり急展開する。

ダニエルはマリオンとの出会うことを信じ、マリオンもまた夢の中でであったダニエルを「必然」と迎え入れる。
マリオンはダニエルに語りかける。

「偶然はもうおしまい

 (中略)

 私たち今その時よ
 私たちの決断はこの街のすべての世界の決断なの
 今、私たちふたりはふたり以上の何か
 私たちは広場にいる
 無数の人々が広場にいる
 私たちと同じ願いの人々
 すべてが私たちしだい

 (中略)

 ふたりが作る歴史はきっとすばらしいわ
 男と女の大いなるものの歴史

 (中略)

 新しい始祖の歴史」

これは男と女の物語なのか、分断された2つの国家の物語なのか――。
単に愛する人のために人間になろうとする天使といった甘口のファンタジーをヴェンダースは許さないのだ。

ラストシーン。カシエルが2人の共同作業を見守る。何よりもシルエット越しに映るマリオンの姿が美しい。


【評価】
総合:★★★★☆
雰囲気は作りこまれています:★★★★★
難解とみるか単純とみるかは微妙です:★★☆☆☆

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