ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

【映画】TIME/タイム:示唆に富んだ「時間」が貨幣となった世界

2013年05月07日 | 映画♪
「ガダカ」を彷彿させる空気感、設定の面白さ!そう思ったら、監督は「ガタカ」を撮ったアンドリュー・ニコルということで納得。この監督、「ガタカ」をはじめ「トゥルーマン・ショー 」(脚本)や「シモーヌ」など、設定の「妙」を活かした独特の作品を作っている。この「TIME」もそれら作品に負けない設定で、僕らを作品に引き込んでいく。

【予告編】

映画『TIME/タイム』予告編


【あらすじ】

現代にどこか似た近未来。科学技術の進化により老化は完全に無くなり、全ての人間の成長は25歳でストップする社会となった。この社会の大きな特徴は、唯一の通貨が“時間”であるということ。25歳になった瞬間から、左腕に埋め込まれたボディ・クロックが余命時間を刻み始める。限られた一部の“富裕ゾーン”の住人が永遠の命を享受する一方で、圧倒的多数の“スラムゾーン”の人々は余命23時間。生き続けるためには、日々の重労働によって時間を稼ぐか、他人からもらう、または奪うしかない。日々が熾烈なサバイバルだった。2つの世界には、“タイムゾーン”という境界線があり、互いの世界の行き来は禁じられていた。ある日、スラムゾーンに住む青年ウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)は、富裕ゾーンからやって来た、人生に絶望した男ハミルトン(マット・ボマー)から116年という時間を譲り受ける。(「Movie Walker」より)


【レビュー】

遺伝子操作によって25歳から年を取らなくなった世界。人口過剰を防ぐため、時間が通貨となり、持つものは永遠に生きられるようになった…テーマはそれこそ「銀河鉄道999」と同様で、永遠の生が果たして幸福なのか、限られた生を生き抜くことこそが大事なのではないかということ。しかし何よりも、この映画の秀逸さは「時間」を「貨幣」にしたことだろう。

もちろん「TIME is Money」の言葉があるように、「時間」が貴重な存在だということは誰もが知っている。実際に僕らの労働の多くは「時間」単位で賃金が支払われているし、「時間」あたりにどれだけの物を作れるか、処理をできるかを測っている。

しかしそれらの前提は「時間」というものが等しく有限だからだ。

平均寿命が江戸時代に比べて2倍弱くらいになったとはいえ、時間は全ての人に平等に与えられている。だからこそそれぞれの時代で権勢をほしいままにしている者、十分すぎる富を得たものが最後の望みとして「不老不死」を願うことになる。

では「時間」が等しく「有限」ではなく、偏在し増大するものとなったらどうか。この物語ではそうして「時間」を獲得しようとする。しかしそれが無制限に増えていいものではない。仮に人の寿命が延びたとしても、資源は有限でしかない。全ての人が無制限に時間を獲得すれば、人口増大につながり、やがては社会全体に危機をもたらすことになる。

そこで世界の「時間」量をコントロールしようとする。これは貨幣量をコントロールしようとするのと同じだ。一方的にある国家が貨幣供給量を増加させれば、インフレの発生や為替レートに影響を及ぼし、場合によっては周辺諸国の経済危機を誘発することもある。

この映画では「国家」の姿は描かれないが、保有する「時間」あるいは「労働」の在り方(搾取のされ方)によって階層化されている。そして保有する時間の量のを通じて低所得者層の人口をコントロールし、社会全体を成立させようとする。

現在の国家では、例えば消費税を上げて低所得者層への負担を増大させたとして、それをそのまま放置すれば現体制(政権)が維持できなくなるため、何らかの緩和措置や負担軽減措置をあわせ持つことが多い。あるいは生活保護などのセーフティネットを用意することで、生存権を保障し、現体制を維持できるようにする。

しかしこの作品では一方的に「時間」を管理することで体制側が「生殺与奪」の権を握っている。

ウィル・サラスとシルヴィア・ワイスはこうした貧困層がまさしく「命」を搾取される構図に対抗するために、貧困層に100万年というの時間のインフレ状態を作り出し、システム全体がうまくいかないようにする。極論すれば、全員が高所得者層になれば格差は無くなるというわけだ。

映画ではここまで。しかし実際のこのような行為はシステム全体を崩壊させる。実際の通貨であれば、信用が揺らぎ、新たに安定した通貨がでるまではドルが流通したり、近隣国の安定した通貨が利用されたりするだろうが、このシステムには代替がない。いったん不老不死の夢を手に入れた者たちがそれを手放すことはできるだろうか。増大する人口を支えるための資源を生み出すことができるだろうか。

結局のところ、この物語は「破壊」だけを目的とした、ささやかな抵抗の物語なのだ。あるいは「人生」という退屈な存在に「刺激」を求めるだけの…


【評価】
総合:★★★☆☆
設定の面白さ:★★★★★
前半の面白さに比べて後半の失速感が…:★★★☆☆


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