ビールを飲みながら考えてみた…

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Google、モトローラ買収に見る、MS・appleとの生き残りをかけた暗闘

2011年08月20日 | モバイル
このお盆休みの間の驚きのニュースが、Googleのモトローラ買収だ。

 グーグルがモトローラ・モビリティを買収--約125億ドルで - CNET Japan

PCからモバイルに主戦場が移り、AppleとGoogle、マイクロソフトが激しい争いをしているのは周知のとおり。しかしGoogleというのはandroid OSを無償で各社に提供するなど、基本的にはOPEN戦略、プラットフォーム戦略を推進していると考えていたので、ハードウェアメーカーであるモトローラを買収するというのは、ちょっと意外な感じが。

その後の解説記事などを見ていると、この買収の狙いは、Appleに対抗するためのハードウェアメーカが欲しかったというよりは、マイクロソフトとAppleが団結して行っている Android OSに対する特許侵害訴訟に対抗するためだったようだ。

 モトローラ買収とグーグルの法的戦略の方向性--特許ポートフォリオ強化に至る背景 - CNET Japan

Googleは今、スマートフォン躍進の立役者でもあるAndroid OSに関して特許訴訟の攻撃に直面している。それはモバイル分野に後発だったGoogleが、それまでの主役であるAppleに挑むために仕方がなかったことでもあるのだけれど、彼らはAppleの閉鎖的なエコシステムに対抗するために、あらゆるメーカーに対して、無償でOSを提供することにした。それがandroidだ。

日本でも、ガラケーの人気が高かった時代、各メーカーはその開発費の高騰に苦労をしていた。すでに市場にはケータイが行き渡っており、買い替え需要の「取り合い」。キャリアはそれぞれの競争のために新しいサービスへの対応を求めるし、メーカー間の競争に勝ち残るために独自の機能の開発も必要だ。開発スケジュールはタイトになり、ユーザーが関心を示すかどうかの予想もつきにくくなる。巨額な開発投資も博打に近い状態となっていく。

そんな中で、メーカー間の合従連衡も進む。一時は一世を風靡したNECも、カシオ計算機、日立製作所の携帯電話部門を統合し「NECカシオモバイルコミュニケーションズ」となり、東芝と富士通も「富士通東芝モバイルコミュニケーションズ」となった。三洋電機の携帯部門は京セラに買収されることとなり、SonyはSonyで単独での生き残りは諦め、当時、ノキアの攻勢を受けていたエリクソンとの合弁をはかる。それが今のソニエリだ。

海外ではノキアが活躍していたものの、それはあくまでもケータイの世界であり、iPod~iPhone/iTunes Store、AppStoreを中心とした閉鎖的なエコシステムとスマートフォンという新しい市場を作り出したAppleはそれまでのどこにも属さない独自のポジションを獲得していく。

この頃、マイクロソフトはWindows CE/Mobileなどを提供していたものの、Googleはモバイルへの取り組みは遅れていた。

ガラパゴスの国・日本では既に当たり前になっていたが、いよいよネット・IT業界の主戦場はPCからモバイルへと移っていく。

Appleは自ら、スマートフォンという市場を切り開いてきたし、閉鎖的なエコシステムを作り上げることで、ブルーオーシャンを確立した。この市場はますます伸びるだろうし、Appleはその地位を固めていこうとするだろう。仇敵のマイクロソフトはWindowsOSの呪縛から逃れることができず、この市場での成功モデルは築けていない。音楽配信の市場ではZoneを作ってみたものの、惨敗といっていい。

仮にマイクロソフトがiPhoneに対抗できるOSを開発できたとしても、彼らはハードウェアメーカーではない。OSのライセンスフィーをビジネスの対象としている以上、Appleにとっては組み易い相手だろう。OSとデバイスを
合わせて開発できるAppleは、その2つを1つのものとして「新しい体験」を創り出すことができる。あくまでもソフトウェアベンダーとしてのマイクロソフトではそうした「体験」を創り出すことは難しい。そしてハードウェアベンダーに対して、ライセンスフィーを要求する以上、端末+OSの価格は決して安いものではない。

しかしGoogleのandroidは違う。確かに彼らもソフトウェアベンダーだ。デバイスとセットになった「新しい体験」を生み出すことは容易ではない。しかし彼らは、そのandroid OSを世界中のハードウェアベンダーに無償で提供するとした。スマートフォン市場の価値に気づいたハードウェアメーカーたちは、この動きに一斉に乗ることになる。自社での開発費を得意分野に集中させることができるし、高額なライセンスフィーも不要だ。

またAppleの自社ブランドの価値を高めるための戦略に振り回されてきた通信キャリアなども、対抗手段としてのAndroidに対し大きな期待を寄せる。世界各国の通信事業者や携帯電話メーカーなどはGoogleとのアライアンス組織(Open Handset Alliance:OHA)に参加することになる。日本ではKDDIやドコモが参加した。

その結果、Android陣営はAppleへの対抗軸となり、確かにタッチパネルの操作感など1つ1つはiPhoneに及ばないかもしれないが、コストパフォーマンスを考えると十分な競争力を持つこととなる。Appleが築いたブルーオーシャンが崩れようとしているのだ。

しかし同時にこのモデルはマイクロソフトにとっても危険なものだ。androidが採用されるということは、Windows mobile/Windows Phone OSの参入余地が減るということだ。しかもこちらはライセンスフィーを必要とする。マイクロソフトがノキアと提携したのもapple/anroid対抗というものだろう。

そしてappleとマイクロソフトが仕掛けたのが、無償のandroid OSに様々な特許訴訟をしかけ、androidを無償で提供させないでおこうというもの。もちろん訴訟で負けるようなことがあれば、androidの無償での提供は困難となり、結果、端末価格の上昇、エンドユーザーの負担が増えることになる。

こう書くと、何かAppleとマイクロソフトが自分たちの利益を守るために、Googleにひどいことをしているように見えるけれど、実際にはGoogleのやっていることもえげつない。

Googleが多額の開発投資が必要なOSを無償で提供しているのは、別なところで儲けることができるから。「iPhoneの閉鎖的なエコシステムではなく、もっとOPENなインターネットの世界を利用できる環境を作りましょう、そのために必要なものはこちら(Google)で用意しますよ」Googleが言っているのはこういうことだ。でも彼らはボランティアではない。では、Googleはどこで儲けようとしているのか。

Androidマーケットのような課金モデルも用意しているとはいえ、何といっても彼らを支えているのは「広告収入」だ。OPENなインターネットの世界を利用するということは、大なり小なり「検索」に触れることになる。当然、そこで利用されるのはGoogle検索だ。しかもその検索結果には「検索連動広告」が載っているし、そこからたどりついたサイトやブログでは、adsenceのような広告が掲載されているかもしれない。いずれにしろ、それらをクリックするごとにGoogleの収入があがることになる。彼らにとっては、appleのような完結型のエコシステムでユーザーを囲い込まれることは許せないのだ。

そのために、他社(ex.マイクロソフト)がモバイル向けに新たに投資を行い、開発し、販売(投資の回収)をしているOSを無料で提供しようとする。様々なメーカーを集めて、数でappleを追撃し、iOSのシェアを奪おうとする。新しい「スマートフォン向けOS(android)」に必要な開発コストを他の収益(ex.広告)に転嫁することで、android陣営を安価で競争力の高い状態に導いているのだ。それは「うまいやり方」ではあるかもしれないけれど、「競争」という観点からはまっとうではない。

もっと言うならば、この自社のビジネスモデルの防衛とそのための他社への攻撃という「特許戦争」は、そもそも世界でも古参の携帯電話メーカーである「モトローラ」の存在をただのゲームの「駒」としか見ていないかのように映る。

これがビジネスの世界の現実だといわれれば、その通りなのだけれど、何か、マネーゲーム同様、「働く」ことや「モノづくり」の意味を失った世界の有り様なのだと、寂しさを感じてしまうのは僕だけだろうか。


 「グーグルへの売却金額は不十分」--モトローラ株主主張 - CNET Japan

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