文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:富士学校まめたん研究分室

2015-10-31 08:49:43 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
富士学校まめたん研究分室 (ハヤカワ文庫JA)
クリエーター情報なし
早川書房


 芝村裕吏の「富士学校まめたん研究分室」(ハヤカワ文庫)。

 主人公の藤崎綾乃は、アラサーの工学系女子。自衛隊の技官をやっている。早稲田から東大の修士へ進み、MITへの留学経験もあるという才女。ところが、極端な口下手なため、いつも不利益を被っている。この物語が開幕した時点では、先輩に当たる男が仕掛けてきたセクハラ事件のおかげで、閑職生活の真っ最中。彼女が口下手なこともあり、バカな上司が、相手の言い分をほぼ採用したためだ。

 そんな彼女に影のように付き添う謎の同僚、伊藤信士。ある出来事により、彼女にとっては大嫌いな男だ。どれだけ嫌いかというと、口下手な彼女が、相手を意識せずに、全く普通に話せるくらいなのである。この設定でピーンとくるように、この作品の一つの柱は、二人のラブコメなのだ。二人のやりとりは、コミカルでゆるゆるして、とても面白い。

 しかし、この作品、単なるラブコメではない。自衛隊をモチーフにしているだけあって、日本を取り巻く国際情勢の緊迫具合がいやにリアルだ。現在でも微妙なバランスの上にある極東における状況。一歩間違えると、この作品のようになってしまうことは十分にあり得るだろう。そんな緊迫した情勢の中で、「まめたん」の運用試験を行う富士駐屯地が、何者かの攻撃を受け、綾乃にも危険が迫る。ここで、「まめたん」というのは、彼女が企画した、量産型のロボット兵器のことだ。綾乃は、試験用の「まめたん」を起動して、敵に立ち向かう。

 「まめたん」というとなんだか可愛らしい名前だが、その名前からは想像できないような優れものだ。「まめたん」同士で勝手に連携を取りながら、確実に敵を仕留めていく。戦闘場面では、そのネーミングのような、ゆるゆる感など微塵もなく、手に汗握るような場面が続くのである。描かれるのは、敵を射殺する兵器としての「まめたん」。信士と綾乃の間に流れるゆるゆる感との落差がすごい。

 ゆるゆると、ハラハラの絶妙なバランス。これがこの作品の最大の特徴であり面白さなのだろう。表紙イラストと「まめたん」というネーミングから、単なるコメディ小説(もしくはラブコメ小説)だろうと思っていると、その認識を、思い切りひっくり返されるに違いない。

☆☆☆☆

※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« らーめん・つけ麺 よろしく | トップ | 大学院受験(思い出シリーズ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

書評:小説(SF/ファンタジー)」カテゴリの最新記事