空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

キーパー」 マル・ピート 池中耿訳 評論社

2020-01-22 | 読書


スポーツが好きでその上厳しい練習経験があり試合を重ねたことがあれば、そうでなくても、主人公ガトーが、流行りで言えば神コーチの指導でみるみる才能を開花させる過程にワクワクする。#海外文学vol.4
自他共に許す南米一のスポーツ記者が、一昨日ワールドカップをとったばかりのガトーにインビューを開始する。

192センチの巨躯に恵まれたガトーは軽々と動いて記者の前に座った。そして生いたちからワールドカップを手にするまでを淡々と語りだす。

手足ばかり細長いコウノトリと呼ばれた子供時代。父は木こりで家はバラック、町を挙げてサッカー狂。
彼は仲間はずれで深い森を、森と呼ばれるジャングルの中をさまよった。
それまで足元ばかり見ていた、サッカーを離れて初めて広々とした空や森の生物を見た。
森の匂いを嗅ぎそこに住む様々な生き物を見ながら踏み込んだ道の先に、あるはずのない広い空き地があった。そこに三本のポ―ルに古いネットを結び付けたサッカーゴールがあった。そこで見たことのないユニーホームを着たゴールキーパーが不思議な雰囲気を纏って現れた。帽子が顔半分を隠しサッカーボールを抱えていた。

キーパーは口と音がずれているような声で「そこだ。そこが、君の場所だ。君にはそこが合っている」といった。
彼は夢中で走って逃げて帰り夜も震え通しだった。何度も夢で同じ場所に引き戻され声が聞こえ目が覚めた、次の日、叔父が言った。「森が恐ろしいところだと教える大人たちは間違っている、木こりは森に許されて木を切る。森は恐ろしくない、森を恐れ敬わないといけない」
「ここは俺の場所だ、俺にはここが合っている」

私は「フィールド・オブ・ドーリームス」を見ていた。同じような話だろうか。しかし森の怪しい人は一体何者なのだろう。幽霊だったと彼は言うけれどそれならなぜ彼の前に、森の中に現れたのだろう。

彼は森に行った。「何のために僕を連れ出したの?」「ゴールを守るためだ。わかっているだろう」
彼はストライカーになりたかった。だがなぜかそれから二年、毎日欠かさず森に通った。

ガトーは言った「サッカーのすべて、サッカーについて本当に知っていなくてはならないこと特にゴールを守ることのすべてを、森に学んだんだよ」


ジャングルの練習について記者は聞いた。

やみくもに飛んで来るシュートなど受けられない。ゴールの真中に突っ立ってしまった。「じっとしていることを覚えたな、次はシュートがどこへ飛ぶのかみきわめろ」

そして練習時代、彼はキーパーが見込んだ通り後年の洗練されたテクニックに繋がる努力と才能があった。
次第に筋肉が鍛えられ勘が身につき、本能のように体が動き始める。13歳の彼の才能を見抜いたキーパーは天才を育てたのだった。

不思議な男との深い絆は、ガトーと呼ばれるようになってプロ契約をし、世界で名を知られ、ついに四年前に逃がしたワールドカップを手にする頃には、少し距離が開いていた。

記者は質問を続けようとした。
「ついに、カップを手にしたんだ」

しかし彼は引退を宣言し、記者が振り向くと。ガトーもカップも消えていた。

彼はカップをもって急いだ。もう昔の姿が残っていない森を奥深く進んでいった。
そこにキーパーはいるのだろうか。



練習は過酷なもので、キーパーは天才的なストライーカーだった。「自分の何を知っている?できないのは想像力が足りない、信念の不足だ」

プロ入りのきっかけになった地元のアマ試合に森のオーナーが一人プロ選手を紛れ込ませて実力を試した、「君は最高のゴールキーパーだ」
そして初めての契約金を家族に渡してサッカーの世界に出て行った。

それから14年。最後の試合で、カップをかけたPK戦の息詰まる攻防。



読みどころを外さない展開にワクワクした。

そして彼がキーパーを探して森をかき分けて広場を探す。あのゴールポストはあるだろうか。キーパーはまだ来てくれるだろうか。

キーパーの正体を知る最後のページは感動で胸が震えた。

練習方法、試合シーンの的を得たスリリングな描写は作者が大のサッカーファンだからとか。
海外文学のご紹介に感謝します。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする