これの前編のような、「家守綺譚」は、綿貫征四郎が住んでいる家の周りで起きた話だった。手入れのされていない、いわば野趣のある庭の草木が醸し出す夢と現実の境を見るような風景が、描かれていた。
続編の「冬虫夏草」は、長く帰ってこない犬のゴローを探して、鈴鹿の山並を歩く話で、やはりこの世のものでない様々な出来事に出会う。
征四郎の自然体が、呼ぶというのか引き寄せるというのか、人間には「妖かし」に見える事柄も、彼には不思議ではなく、かえってそれらに親しまれ、宿を与えられて歓待される。本当に何かほのぼのとした読後感だった。
ゴローがいなくなったのも、それなりの仕事があったらしいのだが、山には邪気も住んでいて、何かあったのではないかと心配でならない。
そのうえ、イワナの夫婦の宿というのにも泊まってみたいと思う。
そんな征四郎の好奇心と一緒に鈴鹿の山を歩くのは楽しかった。
鈴鹿の峰を源にするいく筋もの流れは清らかに澄んでいるし、雨の後の落ち葉の匂いや、山霧の立つ様子などは、不思議な古代の気配があってもおかしくない気がする。
そこには、川に沿って山奥の集落が点在し、古代からの習わしのように自然の神々が敬われ祭りの行事も伝わっている。
――それはついこの間、ほんの百年少し前の物語――