ミル號

2016-03-17 11:49:55 | ねこ部
私が就職して間もない頃だったと思う。
私は、母の代わりにイヌのゴローくんの散歩をしていた。
田んぼ道を歩いていると、足元に小さな仔猫がうつぶせでころがっていた。
私は仔猫が死んでいると思った。
死んでいると思った瞬間、その小さな頭が微妙に動いた。
「生きてる!!」そう思った私は、もう散歩どころではない。
「ゴローくん、ごめん!!」と言うと、私は仔猫を抱いて慌てて家に帰る。

仔猫を布にくるんで温める。
母は哺乳瓶を買ってきて、仔猫にミルクを飲ませた。
ミルクで育ったから「ミルちゃん」。
我が家にまたネコがやってきた。

当初母が、仕事に行っている間、ミルちゃんのことが心配で仕方ないと言っていたのを覚えている。
拾ってきて、ただかわいがるだけの私に比べて、
母は、本当にミルちゃんのことを心配していたのだなということに、
わりと最近になって、私は思い当たった。

イヌのゴローくんを飼い始めてから、動物病院にも行くようになっていたので、
ミルちゃんはちゃんと避妊もした。
恋の季節には、外で鳴くオス猫の声に反応することもあったけれど、
何日も帰って来ないというようなこともなかった。

ミルちゃんは、ジャンプが得意。
ネコがジャンプが得意なのは当たり前だろうと思う人もいるかもしれないけれど、
ネコにも個性がいろいろあって、ミルちゃんは本当に見事なジャンプをした。
私でも手の届かないような冷蔵庫の上まで床からジャンプした。
ある日、ミルちゃんの元気がなく、食欲もない時があって、
姉が病院に連れて行くと、外傷はないけれど、車とぶつかったようだ。
腰の骨が折れていると言われ、手術をしたことがあった。
腰をケガしたのなら、治ってももうあのジャンプは無理だろうと思っていたのだが、
ミルちゃんのジャンプは見事に復活した。(すごい!!)

ミルちゃんには、クロという友達がいた。
よく家の庭に遊びに来るオス猫で、野良猫だと思われたが、クロが来ても怒ることもなく、
仲良くしていたようだ。
ある日、クロが前足をブラブラにして、ひどいケガを負って現れた。
私はびっくりして、クロを動物病院に連れて行った。
病院の先生は、クロを一目見るなり、「この子、お宅のネコ?」と聞く。
「いいえ、よくうちに来るネコなんですが、こんな状態で現れたので…」
先生が言うには、前の日にクロを病院に連れて来た飼い主さんがいるとのこと。
ひどい状態だったので覚えている。
手術することもできるが、飼い主さんがそこまではしなくていいと言われたとのことだった。
「飼い主さんがそうおっしゃるなら…」とそれ以上の治療はお願いしなかったが、
せっかく来たのだからと、化膿止めの注射を打ってもらって帰った。
クロが飼いネコだったのには驚いた。
そしてその動物病院は、うちからそんなに近い所ではなかったのに、同じ病院に連れて行ったということにも。

その後、クロは前足をぶらさげたまま、元気にそれまで通りに遊びに来ていた。
「動物って、たくましいんだな」とその時に思った。

私が子供を産んで里帰りしていた時に、お祝いに来てくれた伯母がミルちゃんを見て言う。
「赤ちゃんがいるんだから、ネコはなんとかしないとね」
私も、母も、そんなことは全く考えていなかった。
子供もネコも大切な家族である。

ミルちゃんは、18歳まで生きた。
後で姉に聞いた話では、急にちゃんと歩けなくなって、病院に入院させてもらっている間に亡くなったそうだ。
業者さんに頼んで、名古屋の八事霊園に葬ってもらったという。

私が最後に会った時も、見た目もそんな歳をとっているとは思えなかったし、元気もあった。
ミルちゃんは本当におりこうで…。
今のところ、実家に住んだ最後のネコである。