セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「シャレード」

2011-10-02 17:46:03 | 外国映画
 オードリー・ヘップバーン。
 レビューの余談の項で少し辛辣な事も書きましたが、僕、ヘップバーン
のファンですよ、大ファンと言ってもいいくらい。
 でも、J・フォンダやJ・ビセットなら、ポスターを壁に貼ってという感じだ
けど、ヘップバーンの場合、壁なんてトンデモナイ、御写真を額に入れて
高いところに掲げなければ畏れ多いという感じ。(笑)

 「シャレード」(1963年・米)監督・スタンリー・ドーネン、出演・オードリー・
    ヘップバーン、ケーリー・グラント、ウォルター・マッソー、音楽・ヘン
    リー・マンシー二

 ミュージカルの名人S・ドーネンが、大好きなヒッチコックのタッチで作っ
たサスペンス・コメディの傑作。
 イギリス人のユーモア感覚と、アメリカ人のユーモア感覚の違いが良く
解ります。
 これが製作された裏側には幾つか業界のエピソードも有るようですが、
別に知らなくてもいい事ばかり。
 ヘップバーンの生活費でホテル住まいが出来るのか?
 何でヘップバーンは出てくる度に、衣装が変わるのか?
 こんな展開で警察が黙ってる訳がないとか?
 そんな事に、いちいち目くじら立てる人は、この映画には縁無き衆生。
 「トリックが、ありきたり」と自慢げに仰る方には、「はあ、そうですか」
 これは、サスペンスフルな世界で繰り広げられるヘップバーンとグラント
の小粋なユーモア、マッソー、コバーン、ケネディ他、出演者達の存在感
をお洒落に楽しむ映画(誤解してる人が多いのですが、3人はこの後、
大スターになった)です。
 だけど、サスペンスもトリックも、僕はヒッチコックに決して劣らないと思っ
てます、ヒッチ・タッチの最高傑作。

 バカンスから一人パリのアパルトマンへ戻って来たヘップバーン、ドアを
開け中へ入って吃驚、家財道具は全て無くなり空家同然。
 追い討ちを駆けるように、離婚しようとしてた夫が殺されてる事が判明、
そんなヘプバーンの前に、ボディーガードを買って出る知り合ったばかりの
男、更に正体不明の3人の男達が現れる。
 アメリカ大使館に呼び出され、バーソロミューという男から聞かされた話
は、「戦争中、アメリカの軍用金25万$をドサクサに紛れて横領した5人
組がいる、その内ダイルという男が死んで残りは4人、貴女の死んだ旦那
は、その1人で、どうやら、その金を独り占めして逃げる所を殺された、で
も、肝心な25万$は見つからなかったらしい、連中は貴女が持ってると思
ってる、気をつけなさい」というもの。
 25万$の行方と、殺人犯は誰なのか。
 誰も信じられない展開。

 ヘプバーンを中心に、グラント、J・コバーン、G・ケネディ、N・グラスが入
り乱れ、連続殺人という異常事態が進行していきます。
 そんな殺伐とした話なのに、監督のS・ドーネンはヘップバーンとグラント
の持ち味を最大限に生かし、ウィットに富んだ台詞とユーモアで、お洒落な
雰囲気を決して壊しません。
 演出、音楽、役者、演技、全てが程よく調和してるからこそ出来る芸当。
 個人的な事ですが、この作品は僕にとって正真正銘のマスター・ピースの
一つなんです。
 
 オシャレな世界と対極の所に居る僕ですが、この映画、とにかく「お洒落」
要素に溢れています。
 ジパンシィの衣装をさり気なく着こなすヘプバーン、相手は夢の工場ハリ
ウッドで「一番スーツが似合う男」と言われたグラント、甘い旋律を書かせた
ら「右に出るものなし」のH・マンシー二の音楽、そして、舞台は「花の都パリ」
ですもん。(笑)。
 一人で観ても、カップルで観ても、家族で観ても楽しめる、最高の娯楽映
画だと思います。


※ヘプバーンが亡くなった時、日本のニュースでは「ローマの休日」の画像
 が使われ、アメリカでは「シャレード」の画像が使われたそうです。「清楚・
 清純」が重宝される日本と「大人の女」が好きなアメリカ人の違いが出て
 います、彼女にとって、この2作が最大公約数の代表作なんだと思います。
※ヘプバーンが長期リタイヤする以前(「ローマの休日」~「暗くなるまで待っ
 て」)の作品群の中で、大ヒット作と通常のヒット作を分けると、面白い特徴
 があります。
 それは、相手役が彼女と同世代だと余り成績が良くないんです。
 例外は「ティファニーで朝食を」と「暗くなるまで待って」くらいでしょうか。
 でも、前者は音楽が大ヒットしたお陰、現在、音楽とジバンシィの衣装が語
 られる事はあっても映画の内容に関して語られる事が殆んど無いのを見
 ても、その辺は感覚的に理解できると思います。
 「後者」は脚本が良かった、他に、もう一点理由があるのですが、それは
 最後に書きます。
 「ローマの休日」、「昼下がりの情事」、「シャレード」、「マイ・フェア・レディ」、
 相手役は、それぞれG・ペッグ、G・クーパー、C・グラント、R・ハリソン。
 これら大ヒットした作品に共通するのは、相手役が異常な程に年上な事。
 生身の人間に対して「妖精」と呼ぶのは余り好きじゃないのですが、彼女
 の場合、相手役が同世代に近づく程ダメ、多分、リアルなSEXを感じさせ
 る年頃の男はダメなんですね、潜在意識の辺りで観客が拒絶反応を起こ
 しちゃう。
 年が離れて、男と女の形だけになった「お伽話」の世界まで行くと、A・ヘプ
 バーンという女優さんは「この世の人間」とは思えないくらい輝き出し、現実
 の世界にも、こんな「お伽話」が有ったっていいじゃないかと思わせてしまう
 稀有な存在、だから、やっぱり「妖精」としか言いようがないのかも知れませ
 ん。
 最後に「暗くなるまで~」ですが、つまり、あの時は、もう「妖精」という歳で
 もなくなり、神秘性が薄れてしまったので同世代の男でも拒絶反応が起き
 にくくなったんだと思います。
コメント (4)
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