クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

忘れ去られた“戦車”が眠るウワサは本当か?

2010年12月24日 | 奇談・昔語りの部屋
かつてその松林には、“戦車”が眠っているという噂があった。
戦争が終わりに近付き、
兵隊が戦車を松林に隠したという。

その後終戦を迎え、戦車はそのままになった。
いつしか存在を忘れ去られ、
いまに到っている、と……。

その噂がどこまで本当なのかわからない。
中学生だったぼくらはその場所へ行った。
しかし、すでに松林は姿を消していた。
戦車もなかったけれど、
トラックのモーター席が何台も並んでいた。

古老の話だと、かつてそこには7メートルを越える砂丘が連なっていたらしい。
利根川の本流がすぐそばを流れていて、
流れ着いた土砂を強い風が巻き上げ、
長い月日をかけて砂丘ができたという。

その土地の名も「砂山」。
砂丘の上には乾燥に強い松が生え、
いつしか松原が広がったという話だ。

古老がずっと若かった頃、
配属将校の指揮で、松原で野営の訓練をしたという。
「松の中で飯を炊いて、近所の民家から貰ってきた梅干しで食べたんだが、
いまでも松の匂いをかぐと、あのときの米の味を思い出すよ」
古老は深いシワを刻んで目を細めた。

戦車のことを訊いてみたけれど、
そんな噂は耳にしたことがないと言っていた。

松林が姿を消したのは、高度経済成長期のときだ。
砂が高値で売れたため、砂丘は格好のターゲットとなる。
松は伐採され、砂丘は削り取られた。
長い自然の歴史を刻んだ松原が姿を消すのに、
時間はかからなかった。

戦車もそのとき消えてしまったのだろうか。
それともまだ地中に眠っているのだろうか。
ぼくらはアスファルトに覆われた道の上から、
だだっ広い松原跡を眺めた。

ほんの少しだけど、小さな砂丘の上に松が立っている。
かつての松原の生き残りだろうか。
その松の向こうには、
青い空が突き抜けるように広がっていた。



ほんのわずかに留める松原の名残(埼玉県羽生市砂山)
最初の画像は同所のクリスマスバージョン
コメント
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