クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

『ノルウェイの森』の“生原稿”はどんな感じ?―作家の秘密道具(2)―

2010年12月07日 | ブンガク部屋
村上春樹の『ノルウェイの森』が映画化された。
この作品のファンとしては複雑な気持ちである。
好きな作品の映像化にともなう期待と不安は誰にでもあるだろう。

近年集英社から、作家の生原稿の写真をそのまま本にしたものが話題になった。
夏目漱石の『坊っちゃん』と太宰治の『人間失格』である。

このシリーズで、読みたいと思うのは『ノルウェイの森』だ。
この作品は実は手書きで書かれている。

いまでこそキーボードで書くのが主流だが、
村上氏がデビューした1979年当時は、
まだ手書き原稿が多かった。

春の昼下がり、神宮球場の土手式の外野席に寝ころんでいたら、
ふと小説を書こうと思ったという。
そして、新宿の紀伊国屋で買ったのは“万年筆”と“原稿用紙”。
夜中にビールを飲みながら、
台所のテーブルで書き綴ったのが『風の歌を聴け』だった。
以後、氏の作家生活が始まる。

『ノルウェイの森』を書いた当時、氏は専業作家になっていたが、
手書きスタイルは変わらなかった。
何年か前、氏の生原稿をネット上で見たことがある。
半ペラに万年筆とおぼしき筆記用具で書かれた原稿だった。
その文字の色は黒だったと思う。

『ノルウェイの森』の第一稿は原稿用紙とは限らず、
ノートやレターペーパーに書かれたらしい。
しかも、当時氏が住んでいたのは日本ではない。
外国でこの小説は書かれている。

第二稿はボールペンで書き直される。
「四百字詰めにして九百枚ぶんの原稿をボールペンですっかり書き直すというのは、
自慢するわけではないけれど、体力がないととてもできない作業だ」
と、氏は回想している(『遠い太鼓』)
「ノルウェイの森」というタイトルが付いたのは、
原稿がすっかり完成したあとだった。

一体どんな文字で、どんな軌跡でこの作品は書かれたのだろう。
『ノルウェイの森』を読み返すたびにそう思う。
ぼくは活字になったものより、生原稿を見るのが好きだ。
というのも、作家の息吹そのものを感じるから。
作品の血流に触れる思いがする。

「村上春樹の生原稿」がもし売り出されたら、
三島由紀夫並みに高額なのだろう。
むろんぼくは、生原稿をコレクションしたいわけではない。
職人の作業工程を見るように、
作家の生の仕事を目にしたいだけである。

『ノルウェイの森』の生原稿は、
いま一体どうなっているのだろう。
いつか公になることはあるのだろうか。
作品の映像化もさることながら、
生原稿の公開も期待したいところである。
コメント
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