クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

編集者と行く羽生城めぐりは?(18) ―幻の城―

2010年12月26日 | 羽生城跡・城下町巡り
年末年始を迎え、里帰りをする人もいるだろう。
故郷はいつもと変わらぬ風景であるだろうか。
それとも、押し寄せる開発の波によって、
景色も人の流れもまるで様変わりしているだろうか。

ほとんど何も変わらないけれど、
ちょっと変えてみたいという人には、
幻の城行きをおすすめする。

幻であるがゆえに、普段は目に見えない。
例え目に映っても、
何もしなければ見えてこない。
他者から伝え聞くこともなければ、
訊いても「そんな城は知らない」と素っ気なく言われるだけ。

幻の城へ行くのは思いのほか困難だ。
城門はなかなか開かない。
しかし、つい先日、その城門を開くカギが現れた。
それは『羽生城と木戸氏』。
入手困難になっていた『羽生城―上杉謙信―』の改訂版である。
これを一読したあと、羽生の地に立てば、
そこはまるで別の土地に感じられるだろう。

『田舎教師』に描かれたようなのどかな田園風景ではなく、
群雄割拠の時代のつはものどもたちの息遣いが聞こえてくる。
北からは上杉謙信、南からは小田原後北条氏、
西からは武田信玄の足音が聞こえてくる。

城を守るは広田直繁と木戸忠朝をはじめ、
木戸重朝や菅原為繁、玉井豊前らの城将たち。
隣接する忍城主成田氏をはじめ、館林城主長尾氏、
深谷城主上杉氏、岩付城代北条氏繁らが、
情勢とともに揺れ動いている。

古河公方足利義氏は安定化せず、
公方の重臣だった関宿城主簗田氏は、
後北条氏から標的になっている。
この城を得るのは一国を得るに等しい、と……。

そんな戦国時代の空気にたちまち包まれるだろう。
日本史の教科書に載っているのが歴史の全てではない。
どの土地にも、培い、歩んできた歴史が眠っている。
その歴史の門を開いたとき、
それまで気付かなかった世界の豊穣さに瞠目するだろう。

年末年始はすぐそこまで迫っている。
そんな閉ざされた城門を開き、
幻の城へ足を運んでみてはいかがだろうか。



『羽生城と木戸氏』(冨田勝治著 戎光祥出版社)
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