クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

川への道は遠くゆるやかに? ―葛西用水路元圦Ⅰ―

2010年12月16日 | 利根川・荒川の部屋
毎年冬になると、本川俣の葛西用水路沿いは、
イルミネーションに彩られる。
数年前から有志者により始められ、
期間限定の幻のイルミネーションと言える。

葛西用水路は万治3年(1660)に開削された用水路で、
利根川から直接取水するものだった。
坂東太郎の異名を持つ大河から直接取水することは容易ではなく、
かなりの技術を要求された。

天保12年(1841)には上川俣から取水口を設け、
葛西用水路に合流される。
「葛西用水路」という呼び名は実はこのときから始まった。

羽生の町を分断するように流れ、
かつては泳げるほど水は澄んでいたという。
現在の葛西用水路は埼玉用水路から取水している。
元圦は締め切られ、親水公園という名の公園に変わった。

言い方を変えると、用水路を上っていけば利根川にぶつかるということだ。
用水路沿いの道を歩いて、利根川に行く人も多い。
ぼくも利根川へ行くときは、用水路沿いの道を使う。

1994年の冬、同級生のNが部活帰りに告白をした日も、
葛西用水路を伝って利根川へ行った。
彼は同じ学校の女の子に恋をして、
悩んだ末に思い切ってその想いを伝えた。

こう書くと、とてもウブで恋に不慣れな男のようだが、
実は彼にはたくさんの女ともだちがいて、
会えばいつも違う女の子と一緒にいた。

チャラ男でも目立つタイプでもないのに、
他校の女の子とやたら仲がいい。
なぜ他校に女の子の知り合いが多いのかよくわからなかったけれど、
ぼくもときどき誘われて、
お好み焼きを食べに行ったり、遊びに出掛けたりした。

そんな彼が一途に恋をして、初めて告白をしたのが、
ぼくらは同じ学校の女の子だった。
小柄で幼な顔の彼女は、ほかの男子からも人気があった。

「彼女、オレのことどう思っているのかなぁ」と、Nは言う。
「嫌ってはなさそうだね」
「好きなのかなぁ」
「さあ、どうだんべ……」

二人の関係は会えばあいさつをする程度。
夏に花火や祭りに誘ったのだけど、
先約を理由に断られていた。

彼女の気持ちは見えない。
好きな人がいるのかどうかもわからない。
そんな微妙な距離感の中、
彼は意を決して告白をした。
部活帰りの彼女を待ち伏せして、呼び止めて……。

Nの気持ちを知った彼女の返事は、
「考えさせて」というどっちつかずのものだった。
ふられてもいなし、成就したわけでもない。
「まあ、黒板は寝て待てって言うじゃん?」と、
ぼくの言葉も微妙になる。

そんな宙ぶらりんのぼくらが向かったのが利根川だった。
(続く)



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