「ガールズバーに行こう」。
電車の音で、よく聞き取れなかったが、社長は、確かにそう言った。
御徒町駅ガード下をボクは社長とA藤君と歩いた。
この先、アメ横の手前に、ガールズバーが一軒あったはずだ。多分、社長はそこを目指しているのだろう。
すると、A藤君が、口を挟んできた。
「ガールズバーなら、こっちにもあります」。
と言って、JRの高架下をくぐろうと進路を変えた。山手線の内側にも、ガールズバーはあったか。
今はなき、「かっぱ」を通り越し、「佐原屋」を過ぎ、「味の笛」に差し掛かかったところで、A藤君は、頭上を指差した。
「ここですよ」と言う。
ガード下の2階にあるテナントだ。こんなところに、店があったか。しかも、それは、ガールズバーではなく、キャバクラだった。
「EGOIST3」と書いて、「エゴイストキューブ」と読むらしい。
1セット、2,900円。
ちょっと、安くないか。いや、安すぎないか。
「行くか?」と社長がボクらに促し、A藤君が頷くと、社長は狭い階段を昇っていった。そして、扉を開けた瞬間、そこは別世界になった。
ボクらは確かに、今まで、御徒町の見慣れた風景にいたはずだったが、ものの数十秒で世界は変わった。壁の中央にスワロフスキーで飾った、祭壇のようなものがある。
そこから、数人の女が現れた。
「居酒屋さすらい」では、あり得ない展開だ。
ボクらは、女についていき、皮のソファに座った。
3人ついた女は、皆若かった。全て20代だという。一人だけ怪しい子がいたが、多分嘘ではないと思う。
この「EGOIST」という店は、神田と浅草橋にあるらしく、それぞれ店の客層が違うという。浅草橋には年配の客が多いとか。女の一人が教えてくれた。
キャバクラには、ほとんど行かないし、興味もない。そんな金があるなら、ボクは違うものにお金を使う。
キャバクラに来たのは、4年ぶりだろうか。前回は、大船渡の「マイアミ」という店に行った(居酒屋さすらい未収録)。もちろん、自分のお金ではない。でも、行けば、楽しくないわけではない。多分、ボクのような男は、あるきっかけで、ハマってしまうのだと思う。だから、のめりこまないように、リミッターをかけているのかも。
おしゃべりの時間は瞬く間に過ぎていく。社長は、延長した。
ウィスキーの水割りは、やはりおいしくない。
ボクの隣に座った女は、1日ひがな、ぼうっとしてるのが好きらしい。どうでもいい話だ。
その延長の時間も、またあっという間だった。ということは、それなりに楽しかったのだろう。
ボクらが階段を降りると、女も一人降りてきて、丁重に挨拶をしてくれた。「吉池」から出てくる客は、そんなボクらをじろりと見ている。
しかし、御徒町のガード下に、まさかキャバクラがあったなんて、知らなかった。
穴場。ノーマーク。
御徒町駅ガード下のキャバクラ。
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