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オレたちの「深夜特急」~インド編 マトゥラー 1 ~

2015-05-11 03:17:11 | オレたちの「深夜特急」

動き出す列車の車窓から、ボブネッシュの姿が一瞬で見えなくなった。図体の大きな鈍重な列車は少しずつ加速をしたかと思うと、ニューデリーのプラットホームを一瞬で駆け抜けた。

インドに着いて4日目、わたしはニューデリーを離れたのだった。

 

3等の寝台列車には多くの人が座っていた。3人がけの座席に4人5人と。

わたしはその中を割って入り、肩をすぼめて座った。向かいに座っているおじさんやおばさん、そして子どもらは、穴があくほどわたしの顔を凝視している。日本人が珍しいのだろうか。

寝台列車は3段ベッドである。だが、日中は真ん中のベッドが畳まれ、下段と上段だけがセットされる。下段は座席に、上段は荷物置き場として利用される。

22時を過ぎた寝台列車は、まだ中段のベッドがセットされておらず、人々は思い思いに下段の座席でくつろいでいた。

 

列車はどうやら、鈍行列車のようだった。

10分おき毎に駅へ着いては、停車と発車を繰り返す。そのたびに、ヒンドゥ語による車内放送が流れるのだが、何をいっているのか、ボクにはちっとも分からなかった。ましてや、駅のプラットホームにある駅の看板はヒンドゥ語しか表記されていない。わたしは停車駅を全く理解できなかった。

これはまずいことになった。

この様子では、マトゥラーに着いても全く分からないじゃないか。

わたしは不安になり、隣りに座るおじさんに話しかけた。

「マトゥラーに着いたら教えてくれませんか?」

だが、白髪が少し目立つおじさんは、首をふるばかり。わたしの英語が悪いのか、そもそも英語が理解できないのか、彼は笑顔を作って首をふった。

 

10分おきに止まる駅は、ニューデリーから離れる毎に寂しくなっていく。それに合わせるかのように、列車の車内も寂しくなっていった。

車内のインド人らは、寝台車のベッドを作り、それぞれの布団の中に潜りこんでいった。だが、我々  が座るブロックはなかなか中段のベッドメイクをしない。

いつしか、周囲が寝静まり車内が消灯しても、彼はわたしと一生に車窓を見続けた。

彼は、中段の席だったが、ベッドを作らず、わたしを見守ってくれているようだった。

「眠いでしょ?」と彼に水を向けたが、彼はまたしても首をふった。

 

車内のあちこちからは、寝息とも鼾ともつかない音があちこちから聞こえ、窓の外は深い暗闇に包まれると、時刻はすでに2時を回っていることに気がつき、そろそろ、マトゥラー到着の時刻だと、わたしは身を硬くした。

駅に着く度に、わたしは車窓の鉄格子に額をつけ、駅の様子をうかがいながら、マトゥラーの手がかりを探った。

「ここがマトゥラーか?」と。

 

時刻は2時半を過ぎた頃、白髪のおじさんは「ネクスト、ネクスト」といい始めた。

どうやら、次がマトゥラーらしい。

なんだ、このおじさんはわたしの言うことを理解していたんだ。

そうして、列車が駅に着くと、「ヒア、ヒア」と言って、わたしの降車を促した。

 

「サンクス」。

わたしは、それを言うのがやっとだった。

そして、ホームから、彼が顔を出す窓におもいきり手をふった。

 

真夜中の2時40分、ようやくわたしはマトゥラーに着いた。

その駅に降りたのは、わたし一人だけだった。

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2 コメント

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いい人 (ふらいんぐふりーまん)
2015-05-12 15:49:04
師も、沢山のいい人達と出会いながら、旅をしてたんだなあ。

この人もほんといい人だ。とてもいいおじさんだ。
言葉少なでいながら、真面目に旅人のことを思い、面倒を見る。言葉は通じなくても、多くを語らなくても、その人の心と、そして師との心の触れ合いが見えてくるようなエピソードだね。

さて、師、一人しかおりなかったマトゥラーという場所。一体どんなことがあったんだろう、師よ。
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Unknown (熊猫)
2015-05-13 03:24:16
近年は、日本においても、電車の車内放送や各表示は英語をはじめ、中国語、韓国語も流したり、記しているけど、ちょっと前までは、こんな状況ではなかったと思う。おもてなしの国っていうのも笑っちゃうくらいに。

しかし、マトゥラー行きは、本当に不安だったなぁ。

海外では、多くの人びとに支えてもらったけど、自分は今、海外からの人に対して、なにも出来てないって思うよ。
これについては、いろいろ考えることがあるんだけど、なかなかやれなくて。
近々、ちょっとスタートしてみようと思う。
恩返しのようなものをね。
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