某五輪代表監督を含めた座談会を取り仕切る仕事が時間を押したために高松空港に到着したのが22時を過ぎてしまった。しかも高松空港からホテルまではバスで30分もかかる。ボクはもうお腹がぺこぺこだった。
ホテルに荷物を置き、夜光虫のように街の灯りだけを頼りに繁華街に着いたのは、もう23時を少し回った時間だった。
幾つかの居酒屋の暖簾を手当たり次第にくぐってみたが、どこももう看板だと言われてしまった。
とにかくもうお腹が減って仕方がない。
少し歩くと、店の入口から煌々と電気が漏れ、湯気が立ち上る店を発見した。
うどん屋さんだった。
鶴丸の文字とJALマークが入った飴色の暖簾。いや、JALマークに極めて似た表象の暖簾をくぐり、「まだやっていますか」と店員にきくと素っ気なく「はい」という声が返ってきた。
さすが、うどん県である。夜遅くまでうどんのニーズはあるらしい。
店内ではおじさんがうどんを打っていた。
その手練な手の動きといったら、本当に素晴らしい。力強くもあるが、しなやかでもある。その剛柔兼ね備えた動きから、うどんが伸びたり縮んだり複雑な形に変わっていく。
その姿に見とれていると、女の子がオーダーを取りに来た。
急いでボクが注文したのは、「ぶっかけ」(600円)とビール(550円)、そして「おでんとうふ」(300円)である。
ビールはスーパードライーの大瓶。田楽の味噌がかかった「おでんとうふ」をつまみにビールをあおる。
半丁ほどある「おでんとうふ」は絹ごし。煮込んだおでんの味がしみ込んだ深い味わい。もう、これだけで今日1日の疲れがとんでいく。
しばらくすると「ぶっかけ」うどんが運ばれてきた。
立ち上る湯気にボクの顔は包まれた。ほっこりとするうどんの蒸気。ピカピカと光るうどん。
それだけでもう食欲が満たされていく。
一口すする。
もっちもちの麺が歯ごたえとともにするすると喉を通っていく。
そう、かつてうどんや蕎麦は喉越しを愉しむため、「のむ」という話しを聞いたことがある。
つまり、麺をすすって、噛まずに飲み込むのだ。
ボクには断じてできない。やっぱり、一口噛んで、その麺の触感を味わいたい。
ボクは目の前の麺をすすり続けた。とにかくすすった。
東京にある「讃岐」うどんの店とは断然異なる、歯ごたえの確かな粘り気あるうどんをすすり続けた。
本当においしい。
やがて、ビールがなくなり、お酒がほしいなと思ってみたものの、この店にある酒類としえば、ビールが唯一だった。
ボクがうどんをすすり終わる頃、突然胸のケータイがバイブレーションした。
着信の表示を見て、ボクの心臓もバイブレーションした。
その拍子にボクは口に含んだうどんを一気にのんでしまった。
さださいさすさきさ
ださかさら