昨年は泊まることがなかったから久しぶりと大歓迎で迎えられ、定員7名二間つづきの部屋に、本日はやはり我々一組だけだそうで、風呂は自由に使ってくださいと。やはり大震災の影響でしょう、川を挟んだ向いの大型温泉ホテルの萬国屋の照明はこの時間帯はほとんど消えているし、観光バスの姿も1台も見えない。冒頭写真は桂屋周辺で奥に萬国屋低層部、手前には足湯が見える。
低層階最先端の2Fにある風呂場は真っ暗で、どうやら客が少ないからか大震災以後は使っていないらしいという話だ。これだけの大型ホテルは団体ツアー客が来ないのはツライだろうねぇ。仲居のお姉ちゃんはもう20年来で、何でも我々が泊まりはじめたころにこの旅館で働くようになったんだそうだ。こちらの地震の揺れを訊いたら、そんなにビックリ腰を抜かすようなものじゃなくて、震度はⅣだったとか、それなら横浜より小さかったんだと、東北中央の山塊で反対側の揺れは軽減されるのだろうか。こちら桂屋さんでは5月連休からはポツポツ予約が入り始めているそうだが、東北の日本海側は全く問題なし、空いている今ドンドン行きましょうなんてお薦めしちゃいたいぐらいだ。部屋からは雪解けで水量が多い川の流れが見えて、でもここも桜はまだ蕾で桜まつりとマラソン大会は中止になったという。この川は鮎やウグイが釣れるし、秋には鮭の遡上で飛び跳ねる姿も見えるというから、夏場から秋への渓流の風情もいい、海に近いのに温泉街は山間の雰囲気で両方の産物が楽しめるところだ。
川向うに萬国屋
温海温泉は無色透明だが飲泉するとやや硫黄臭があるナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉で、泉温は68℃、PHは7ちょっとぐらい、皮膚にシャキッとくる湯だ。桂屋は大小の内湯だけで、この日は我々だけだから大浴場が貸切状態、ここの湯は側面下部に一ヶ所だけ家庭用水道管ぐらいの穴が開いたところから常時出てくるようになっていて、特別な温度調整はしていないから、この日のように客が少ないとそのままではすぐ入れない熱さになっている。水道水を目いっぱい出して、しばし上部の熱い湯を掻きだして温くすること数分、やっと入っても水道水は中ぐらいしたままでジット浸かること2、3分がやっと、これを3回ほど繰り返せば実に体が引き締まった感じになる。このくらいの入浴でもあとがポカポカとなる、し硫黄分がある分効き目は高い温泉だ。飲泉は街中にある指定場所だけでできて、味はマズイけれどこれも便秘、結石や解毒に効能があるとか、でも俺カンケイネェイではあるがね。
桂屋の客室、掃除が行き届いている
この宿の自慢は主人の作る料理で、今回はいつも付くズワイ蟹は女房が食べるのが面倒だしそんなに蟹は好きじゃないというので事前に抜いてもらう代わりに、なるべく主人の手が入った料理をと頼んでいた。毎回蟹はほとんど僕一人で平らげていたから、それと浜名湖の魚介類で育った僕は蟹はササガニ(一般にはワタリガニ)が好きだし、今は貴重品になってしまったドウマンガニが最高と思っていることもあって。部屋出しのこの日の料理も豪華版で、僕が大好物のウニ焼とガサエビ内臓ミソスープさえあれば、あとはもう何の料理でもいいですと言うぐらいのもの。でも今回初めてだったノドグロ西京焼と手作りの胡麻豆腐は特に美味しかった。刺身はオコゼが初めてでこれは鯛よりプリプリ、それと唐揚で出たヒガンフグというのが材料が残っているからと刺身で追加してくれ、これは歯ごたえがトラフグ並でこういうシコシコプリプリが僕の好み。酒は冨士酒造の冷酒でまずはなまいきという銘柄から、そのあとに古酒屋のひとりよがりというのを飲む。これを逆にするとなまいきの味が霞んでしまう、それくらいひとりよがりは凄い酒だ。いつもながら腹は大満足でご飯は初めからパスを宣言、締めの汁ものは筍の粕汁でやはり降参と相成った。女房はこの器は以前からのもの、こちらは新しいなどと仲居さんにイチイチ話しながらでウルサイこと、でもここは料理に拘るから器にも気を掛けているようだ。以前に聞いたとき、美濃焼などの陶器物は洗っているうちに磁器に負けて割れるそうで、こちらではほとんどが有田焼だそうだ。
テーブルに最初に並んだもの、お造り、胡麻豆腐、ノドグロ西京焼、アワビ蒸しに小鉢と漬物
マス煮付
ウニ焼(中身はユリネ入り茶碗蒸)
ガサエビスープ
オコゼとフグ唐揚
ヒガンフグ刺身 日本酒
粕汁とイチゴ
酒でいい気持になってからまた熱い風呂というのは良くないからと、このあとはやはり早めに寝ちゃう、いつも旅行では日常より早寝早起きに徹するんですよ。
温海温泉は江戸時代から続くという朝市があって、冬場はやっていないが4月からは始まっていて、この時期は6時からだという。それでは朝風呂に浸かってからちょいとヒヤカして、冷えて戻ってからもう一回入ろうかと。やはり熱い湯を温くするのには苦労するなぁと、僕はかなり熱めでも我慢できないこともないけれど、我々だけだからそんな痩せ我慢をすることはないものね。
6時過ぎに朝市会場に行ってみたらほとんど客らしきが見えなくて、中央奥の温泉神社の手前の両側に並ぶ店では、シャッターが閉まったままの店が1/3強もあるのはさびしい限り。大昔はこんなには整備していなくて、小屋掛けスタイルに毛が生えたぐらいの店が並び、多少は地の物、それも山の幸ではシラネアオイなどの山野草も売っていて魅力があったのだが、奇麗になってからは保存が利く同じような土産物を売る店ばかりになっちゃって。それと名物の一店だけの骨董屋が爺さんが引退して無くなってしまって、民芸品では科織の店があるけどそんなに高いものは朝市じゃ売れないでしょうに。これはジリ貧になりそう、地元で普段営業の店や農家直接の参加を募らないと、売れ残ってもあとで捌ける手段を持っていない業者じゃないと、魅力がある生鮮物などはリスクが大きくて扱えないよな。それにしても温海名産の焼畑アツミカブの漬物といっても本当に全部焼畑でと疑っちゃうし、お菓子も元禄餅ばかり同じように並べるようじゃねぇ。
温海朝市会場
戻って一服して、朝食は通常より30分早い7時半からにしてもらって、庄内の美味しいご飯と今回はアオサの味噌汁で、それと出汁巻卵焼きとネマガリダケは初めてじゃないかな、朝はご飯は2杯で御馳走様。昨夜も今朝も我々二人だけなのにいろいろな料理を作ってもらって、仕入れだってあまりに少量でということが出来るのだろうかと心配してしまう。毎度のことだがここの料理は最高、東京の料理屋で食べたらいくらぐらいになるのかと、また秋も来ますよと。
朝食