小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

嬉しい「想定外」、ロシアの「失敗の本質」

2022年03月14日 | エッセイ・コラム

まず初めに、前回の記事に誤りがあったことをお詫びして訂正しなければならない。

「ロシア人は実に忍耐強い。ロシア人は、何百回となく同一のことを繰り返して倦むことをしらない。彼らは、何事をなしとげるためにも時間というものがかかること、しかもたとえ時間をかけても成果があがらないことすら十分心得ている」という木村汎のロシア人観を紹介した。

よく考えると、ウクライナ人にも同じことが言えるのではないか。民族的にもそれほど差があると思えない。見た目に違いはない、話す言語も似ている。歴史的にも混然としている(ウクライナの語源は「小さなロシア」、ちなみにベラルーシは「白いロシア」だ)。

そう、ウクライナの人々もロシア人と同じように忍耐強い、と考えるのが普通だ。他者が力で屈服しようとしても、ウクライナ人は老いも若きも、そして女性までもが力を合わせて闘う。ロシア人だけが我慢強く、成果をあげるまで頑張るとするのでは、ウクライナの人々にはたいへん失礼なことに当たる。ここに訂正し、お詫び申し上げます。

ところで圧倒的な武力で首都キエフを包囲し、いまにも陥落されそうな情報が毎日流れていたことは事実である。ところが、その後の進展がない、膠着状態が続いている? それより、士気の高いウクライナ側が善戦しているニュース・映像を目にする。最近知ったのだが、ロシア侵攻前に欧米の軍事顧問団(1000人?)が入り込んでいて、対ロシア戦の軍事的アドバイスをしているという。武力を用いて戦闘行為に加担していなければ、国際法的にはコンプライアンスの枠内だ。

また、ウクライナの民間ドローン会社が貢献していて、ピンポイントで戦車に小型ミサイル弾を誘導して命中させるべく、軍事専用ドローンが大活躍とのこと。赤外線を使った誘導もできるので、真っ暗闇の夜にも攻撃できるのだそうだ。道路に連なっている戦車にそれが撃ち込まれ、大破している映像がニュースでも見られるようになった。心のうちで「ざまーみろ」と思う。

そうなのだ、ロシアはひょっとして作戦を失敗しているか、失敗を認められないのか。あるいは、現地の状況に合わせた戦略・戦術の変更ができないのかもしれない。ウクライナの戦況が気になる小生としては、その関連の情報はBSの国際ニュースやネットのニュース番組でしか得ることができないのだが、自衛隊の元統合幕僚長であった河野 克俊氏が、小生にとって最も関心を引かざるを得ない「失敗の本質」を語っていた。
彼の分析と論拠を紹介し、それに自分なりの気付きや感想をつけて紹介する。

■作戦の目標がない、或いは失っている
 ・ウクライナはかつてロシアと同胞であった。両国にまたがって国民は交流し、混血し、親戚同士だ。戦う理由が極小。
 ・ウクライナを侵略するという明確な目標、作戦が実に曖昧である。兵士間に強いモチベーションが共有されていない。
 ・敵を殺すという非情の論理が支配する戦争.その強い命令が、ロシア兵に徹底されてない。訓練兵を前線に出している。
 ・戦車の前に立ち向かう無防備のウクライナ市民。ロシア軍は躊躇し、敵を倒すという目標を明らかに喪失していた。
 
■ウクライナ軍の低評価と自軍の増上慢
 ・当初、キエフ侵攻では軍事ヘリで攻撃するも中途半端に終了した。制空権の掌握を諦め、地上戦に安易に切り変えた。
 ・対空および対戦車の個人携行型のミサイル攻撃など最新鋭兵器を対露前線に配備。無人攻撃機等ウクライナ軍充実へ。
 ・前線司令官の致命的判断ミスが生じたのではないか。テレビ塔、政府庁舎、民間建築等戦力外施設への示威攻撃が主。
 ・ゼレンスキーの不屈の闘志「逃げない、負けない」との表明が全国民を鼓舞。避難民は10%以下、多くの国民が従軍。

■ロシア軍の不統制、国際情勢の見誤り
 ・ロシア人も粘り強いがウクライナ人も同じく必死の覚悟で戦闘参加。女性の参戦も大きく、兵站作戦に大きく寄与する。 
 ・核使用を口にしたプーチン。核保有国元首が示唆したのはキューバ危機以来。ロシア軍の参謀さえもが驚き、困惑した。
 ・国連におけるロシア代表の偽情報リーク等で信用失墜。プーチン以下上層部の情勢判断不足、インテリジェンスも欠如。
 ・ポーランド国境近くにミサイル攻撃。戦線を際限なく拡散して泥沼状態へ突入。国民の支持低下、厭戦‣反戦ムードへ。

 

以上、作戦目標を見失い、敵を過小評価し、参謀本部は判断ミスし、国際情勢を見誤る。前線の敗因分析もフィードバックされない。まさに、日本帝国陸海軍が太平洋戦争でおかした「失敗の本質」を、大国ロシアも同様にやらかしたのである(日本はもっと失敗があるが・・)。

プーチンはさらに、核保有国の元首だったら絶対に口に出してはならない、「核攻撃」を全世界に示唆した。驚くべきことと同時に、あらゆる制裁を無期限で受ける必然性が生じてしまった。さらに、中国からの経済的支援もか細くなり、ドイツはじめヨーロッパ諸国はいま、ロシア・エネルギーへの依存度を直ちに半減。その全面的なテコ入れも、脱炭素・SDGsと絡めて再検討されるようだ。

したがってロシアはますます孤立化を深め、財政的にも困窮度を増していくだろう。ソ連崩壊後の苦難を超人的な暗躍で乗り越えてきたプーチンは、やはり加齢とともに、能力面の衰えを隠せない。特に、思考の柔軟性や集中力に難点が顕著である。超人でも齢をとると、それまで築き上げた自分の思想に拘泥し、何かあったときのロジカルシンキングの転換が難しい。

ウクライナが主権を訴え、より自由で民主的な西欧社会へとなびいていったことの背景。その時代の趨勢やニーズを、自国民にあてはめて考えてみれば、ロシアはもう以前のロシアではないことを真摯に受け取るべきだった。プーチンはそうした視野もなく、本質的な要請にこたえるべく努力を惜しんだ。隣国のウクライナで、新大統領にゼレンスキーが選出されたという、そのポピュリズムの本質・理路を見抜くことができなかった。むしろ、政敵を暗殺してきた疚しさや、ゼレンスキーに対する男として嫉妬感情に支配されていたのかもしれない。

こんな事実もあった。21年7月にゼレンスキーは、先住民族としてウクライナ人やクリミア・タタール人など3民族を認定し、ロシア人を除外して「先住民法」を制定したのだ。これが何を狙いとしたものなのか、小生は詳しく知らない。しかし、この後にプーチンは、ウクライナを含めたロシア国家体制論の論文を書き、公に発表した。

つまり、ゼレンスキーの為した「ロシアはずし」に、プーチンの頭はカッと切れた。NATO加入やEU加盟をちらつかせて、国民の関心を集めることに躍起となっているゼレンスキーに対して、少々痛い思いをさせねばと強く思ったのであろう。ウクライナが緩衝国ではなく仮想敵国となったのは、この時機ではないだろうか。

ゼレンスキーはしかもユダヤ系であり、ウクライナでは超少数派である。絶大な人気があった俳優とはいえ、日本でいえばアイヌ民族や沖縄のウチナンチューの出身者が国の代表となる、そんな画期的な大統領選挙であった。裏をかえせば、ウクライナの人々は民族のアイデンティティなんかに執着しない、自分たちの民主的な投票に責任を持ったと言うことができる。

 

ロシアのウクライナ侵略そのものが「失敗の本質」ではない。ウクライナに多くの犠牲者、インフラなど社会関係資本の夥しい損壊を出したこと、そのこと自体が問われている。ロシアが早々に撤退することは考えられない。核を口に出すこと、核を考えることは、この日本ではほぼタブーに近い。どうなるのか、自分のことと同じように関心を払って注視せねばなるまい。島国だから安全というのは幻想だ。

東ウクライナのルガンスク、ドネツク両州が独立を宣言し、ロシアが承認した。そしてウクライナへの3面からの侵攻だ。台湾が独立を宣言したら? 一つの中国を謳う本国中国はどう出るか、アメリカはそのとき動くのか、日本は何もしないのか・・。核について考えるのは、政治家やネトウヨたちにお任せでいいのか。核や戦争について口にするのも嫌だ、考えたくもない、平和ボケしたという日本人。思考停止というより思考の丸投げか。停止は再開可能だが、丸投げは放棄だ。

 

例によって、世界史の地政学をイロハを学ぶには、吉川弘文館の年表が役立つ。クリミア半島はかつてギリシャやトルコの領土であったし、弱体したトルコ帝国から割譲されたものだ。ウクライナにしても、かつてはキエフ公国としてロシア文化の中心であった。そんな地勢図を参考までに。

▲11世紀頃の東ヨーロッパ、キエフ公国の名がある。貴族が統治。クリミア半島はビザンツ帝国に。

▲16世紀頃の東ヨーロッパ。ポーランド王国とリトワニア大候国内にウクライナの名がみえる。ロシアはまだ公国。クリミア半島はトルコ帝国領土。クリミア汗国もみえる。

 

 


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