小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

希望のない国、イスラエル

2023年11月04日 | エッセイ・コラム

がんを患って、自分の生死の目途がついたとき、ブログには政治、社会的なテーマは避けようと決めた。なぜなら、昨今、書くことの根拠、エビデンスのことごとくが希薄で、信用のならないものに思えてきた。情報ソースはすべからくメディア経由であり、ITのSNSなどだが、それらはもはや信のおけない媒体であると、自分のなかではほぼ断定している。

そうなのだ、自分にはそれらを客観的に取捨選択する確信、判断基準を持ち得なくなった。専門知のない自分がどう足掻いても、地に足をつけたつまり事実に基づいた文章は書けないのではないか、と。実に哀しいことだし、自信(confidens)の喪失でもある。

ならば、自分の関心のあること、この齢でも学ぶべきこと、惹かれること、好きなこと、身の周りのほっこりすることを書いていこう、と。そう、決めてからは肩の力が抜けて、すらすらと書けるかと思いきや、社会的人間である自分がいつも覚醒していて、私的なことを書くときも社会的云々が頭をもたげてくる。

そんなときだろうか、竹下節子さんから、理系のフリーライターみわよしこさんの存在を教えられた。彼女は事故により車椅子を使用することになった人で、仕事のライターよりも、障がい者として社会のなかでいかに生きていくべきか、差別にどう闘い、関与し、一社会人としてコミットしているかを自身のSNSで発信している。彼女については再度ふれるだろうが、その彼女のSNSを通してユダヤ人の哲学者ジュディス・バトラーの発言、論評を知ることができ、自分でも考えていることを書いてみようと思いたったわけである。

 

ハマスのテロ行為と大量人質略奪は赦されない所業であるが、その後のイスラエルの報復つまり無差別攻撃は、次々に臨界をこえる非人道的戦闘に達したと言わざるを得ない。ジュディス・バトラーは、イスラエル国家を以下のように総括して批判している。

イスラエル国家は、いまの(国際的)ご時世において、国家的犯罪として見なされる植民地主義およびアパルトヘイトを実践している。さらに、今回ハマスの事件に端を発する報復攻撃において、民間およびその施設をピンポイント・ターゲットとして積極的な無差別攻撃を展開している。これはハマス側の攻撃能力を圧倒する一方的な懲罰行為であり、正真正銘のジェノサイドである。(以上すべて小寄道の要約。原文邦訳の参考➡:https://note.com/bashir/n/n78fb1d686563

ジュディス・バトラーはその他にも、イスラエル国家を非難する欧米系の知識人、報道人に対して「反ユダヤ主義」のレッテルを貼って、かれらの居場所を不自由にする、或は排斥するというプロパガンダおよび実力行為に及んでいる、と非難している。

このブログの読者ならば、植民地主義やアパルトヘイトがいかに国家的犯罪なのか、国際法および国連憲章を逸脱する行為なのかご承知であろう。備忘的なメモ書きとして、植民地主義は現在どのように定義されているかネットで確認してみた。

植民地を獲得し、拡大しようとし、あるいは維持しようとする政策あるいは支配の方法、またはそれを支える思想。 植民地には、自民族の移住を目的とするものと、異民族を政治的・経済的支配下に置くものという区別がある。植民地支配の方法として、宗主国国民と植民地先住民との風俗習慣の相違、法意識の差違、政治意識の格差などを利用することや、先住民の抵抗に対しては暴力をもって抑えることなどがとられた。植民地主義ということばは帝国主義と同じような意味でも用いられる。(コトバンクより抜粋)

ジュディス・バトラーは以上のような言葉の定義なり歴史的な背景を一々説明しないが、事の次第を本質的にとらえることは的確だとおもう。さらに自身がユダヤ人であり、自分のこうした活動が「反ユダヤ主義」にみなされようと、なんら恐れることなくその舌鋒は鋭く本質的だ。イスラエルを植民地主義国家・アパルトヘイト国家として明確に非難するのは、パレスチナへの暴力が75年前から組織的かつ継続的に行われてきた歴史的事実を、彼女自身がユダヤ人として真摯に受けとめているからに他ならない。

小生は、ジュディス・バトラーの著作を読んだことはない。雑誌に掲載されたいくつかの評論(ジェンダー問題)を読んだことはあるが、ハンナ・アレントのように人種、立場をこえて、哲学的に是々非々を論じる数少ないユダヤ人哲学者だ。『サピエンス全史』のユア・ハラリやフランスの叡知ジャック・アタリらはユダヤ人であるが、今回のことで何か発言しているのだろうか? 

ユダヤ人ではないエマニュエル・トッドは日本のメディアで何か発言しているのか? もっとも彼はフランス国内では「クレイジーな反逆児野郎という荒唐無稽なものとして扱われる」と自己規定し、ウクライナ戦争についても『第三次世界大戦は始まっている』を日本で出版したくらいだ。

ハマスというかパレスチナ人を支援・擁護する知識人への有形無形のハラスメントは、欧米には厳然としてあるのかもしれない。その意味では、大戦前夜であることの証左でもあろうし、イスラエルの蛮行が成就したならば中東エリアを核とした、それこそ第三次世界大戦が勃発するのだろうな? もし、何かが幸いして停戦にもちこまれたとしても、イスラエルおよびその地に住むユダヤ人は今後、パレスチナ人から未来永劫、赦されざる人民として報復の対象となるだろう。

いやパレスチナ人だけでなく、その周辺のアラブ人、イスラームもまた報復をくり返すだろう。つまり、イスラエル=ユダヤの民は3000年のディアスポラ(棄民)から解放されても、精神的なディアスポラという厄災をほぼ永久に背負うことになる。まさに「希望のない国、イスラエル」が生まれるということだ。これは国連という国際平和機関を通じても止揚することはできないと思われる。日本人の小生からすれば「お気の毒に」というしかない。

 

 

 


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