小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

3.11追悼およびキエフ陥落前夜

2022年03月11日 | 日記

大津波が東北を襲った時、「千年に一度」「想定外」と盛んに報道されていたが、その都度私は違和感を覚えていた。

吉村司氏が、父吉村昭の記念文学館企画展のパンフレットに寄せた「『三陸海岸大津波』は警告する」の冒頭にあった文章である。

父の晩酌に度々付合わされていた氏は、東北の話をよく聞かされたそうだ。太宰治賞を受けた『星への旅』の舞台でもある岩手県田野畑村をふくめ、夏休みの東北旅行は吉村家の行事のひとつだったという。その折には、長男の司氏は8mmフィルムカメラの撮影を父から任された。

例によって晩酌の時、そうした家族旅行の上映会をしたそうである。ときに、司氏の撮影テクニックを褒めてもらったことや、田野畑村の雄大な景観を観ながら、厳しい自然を生き抜いてきた東北の人々ついて滔々と語る吉村昭が想像できる。

海岸の独特の地形が、津波の被害を増幅していく事実を、吉村昭は再三にわたり強調したという。「リアス式海岸では波が駆け上がる」と。吉村司氏も書いている、三陸の海岸で生まれる破壊的な津波現象を体で感じたと。だから「想定外」の報道に違和感を覚えたのだ。

東北地方には、新婚時代に生活のために夫婦で訪れたことは小説にも書かれている。戦後の苦しい時期、実家の衣料販売のためだ。その後、吉村昭はこの地を好み、小説のネタを探し歩いた。田野畑村周辺にも再三訪れ、村の古老たちの津波災害の昔話に耳を傾けた。

ところで、三陸海岸大津波は明治時代だけではなかった。過去にも未来にも繰り返したのだ。

東北大震災のとき、「想定外」を頻発していた当時の東京電力幹部たち、結局のところ社会的責任を全うした人はいない。最近、フクシマの核燃料デブリの取り出しでは、今後40年以上の見通しと莫大な予算計上を臆面もなく発表した(電気料金で回収か?)。

過去に溯るトピックを紹介する。福島原発の立地選定後、その場所に地下水が想定以上に流れ込むことが判明。原発建設にふさわしくない場所だとアメリカに指摘されても、その事実を秘匿しながら、強引な建設に邁進していたドキュメントを最近視聴した。驚きの事実発覚だし、これは3.11事故の遠因ともいえるし、その後の汚水処理における「想定外」の費用算出ともなったのだ。

また、3.11以前の話だが、『三陸海岸大津波』を想定した技術者がいて、危険回避のための防御壁工事を具申したことを思い出す。

これらのトピックは、懸案の地下水対策と同じく、すべてが想定され得る案件である。そのすべてが、リスク予測と費用対効果のバランスという点で予算計上から外された。

廃棄物焼却処理問題はじめ、廃炉に向けての汚染処理水と海洋汚染の喫緊の問題は、今もなお立ちはだかっていて、いっこうに包括的なソリューションが提示されない。政府、経産省にしても東電に丸投げしたままだ。

「3.11」というワードは当事者だけでなく、日本人にとって頭にこびりつく数字のモニュメントになった。ポスト「3.11」の課題は毎年くりかえされ、マスコミの格好の話題となる。喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこれで、なんか年中行事のようになってしまった感がある。

ああ、今年もまた、「小生」なぞと気取って存在する私は、犠牲者とまだ傷の癒えないご家族のために祈ることしかできない。2時46分、テレビのサイレンの音を聴きながら黙とうする。

 

「3.11」を迎えた今日、世界中の悲しみとやりきれない視線が、ウクライナに集められている。ニュースでは、英国王室の方々が黄色と青色の何がしらを身につけて公式行事に参加したことを報じていた。ウクライナの救済と支援は、政治的アピールを避ける英国王室をも動かしている。

首都キエフに対してロシアが総攻撃をかけるという想定は、今まさに現実化しようとしている。両政府代表によるベラルーシの停戦協議、トルコ政府を介しての外務大臣級交渉会議、そして、攻撃対象都市における「人道回廊」の完了を待って、首都キエフその他への総攻撃が一両日中に行われようとしている。

NATOもアメリカも、ウクライナの人民を救うべき作戦では万策尽きたのか・・。「プーチンは狂気に陥った」という米CIA長官の見立ては、プロパガンダに等しく、ロシアとの情報戦に負けたことを意味するという人もいた。

プーチンという独裁者は、国際的な強い非難を浴びつつも、一度決めたことは必ず実行してきた。最初は1994年のチェチェンの首都グロズヌイのせん滅。2か月をかけて砲火、空爆を浴びせ、町の中心部を廃虚にした。市民約3万人が死亡したという市街の崩壊を映像で見た。戦慄で言葉を失った。

シリアの首都アレッポのせん滅作戦も然り。病院など民間施設を無差別爆撃して、夥しい死傷者を出した。アサド大統領への支援というより、ロシアの中東戦略を見据えた、プーチンによる首尾一貫した作戦遂行に過ぎないと噂された。

待て待て、プーチンはいつか根をあげるぞ。欧米の厳しい経済制裁が、その後に展開されるはずだ。金融、貿易、外交などの厳しい締め付け、その四面楚歌における、多大なる損失を想定しているのか。タカをくくっているのじゃないのか? 国際的に孤立し、国そのものが干上がって、国民の猛反発がどんな結果を及ぼすか予測できないのか・・。

(但し、今回のウクライナ侵攻に関して、プーチンは孤絶して命令を出して見える。だが、国内的にはプーチンの支持層は、一定して存在する。ウクライナそのものは、ロシアの国内問題として現状を理解している知識層、中高年者層がそうだという。路上でデモ・抗議運動しているのは一部のリベラルな青年達だけらしい。これに関しては情報不足なので、筆者としては自信がない。悪しからず)

「地政学の天才」と言われたプーチンは、なんと言われようと、自分のたてた作戦目標が成功するまで喰らいつくと識者は力説する。すなわち相手が負けを認めるまで攻撃の手を緩めない、それがプーチンなのだ、と。

ロシア人は実に忍耐強い。ロシア人は、何百回となく同一のことを繰り返して倦むことをしらない。彼らは、何事をなしとげるためにも時間というものがかかること、しかもたとえ時間をかけても成果があがらないことすら十分心得ている」。

これはロシア政治学の泰斗、故木村 汎(きむら・ひろし)の分析だ(この人のことを最近知ったのであるが・・)。

ロシアに精通した「知の巨人?」佐藤優は、木村 汎のロシア学のエピゴーネンだと小生はみている。なぜなら、木村の理論・学識を詳しく、丁寧に語ったことがない、たぶん。

まあ、小生は佐藤のいい読者ではないから、間違っているかもしれない。仮に佐藤が木村の神髄を熟知していたなら、それはそれで彼の独自性としての存在価値は高まる。(最近おもてに出ない。調べたら病気療養中みたいだ(人工透析を週に3日)

ともあれ、「核の抑止戦略」を組み込んだ作戦を、プーチンは平然と指示したことは知られている。それ以降、アメリカはサイバー戦を読み解いた攻撃予測を公開しなくなった。ウクライナ政府および軍との連携を、アメリカは今も続けているはずだが、実質・実効的な供与は不可能だ。

なんとロシアは既に、戦後処理の構想・プランは出来上がっているという。アメリカが戦後に実施した、日独における敗戦処理をシミュレーションにして、それをウクライナに適用するらしい。

プーチンをここまでのさばらしてきた元凶とは何だろう。「ロシアがなければ世界に意味はない」と嘯いたプーチンの自信はいつ出来たのか。ロシアが招く暗黒の世界を切り開く、新たな力や智慧は生まれるのだろうか。

 


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