小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

バイデンはアメリカを立て直せるか

2021年05月26日 | エッセイ・コラム

筆者はかつて、昨年の11月頃「バイデンになっても、アメリカは変わらない」という記事を書いた。  →https://blog.goo.ne.jp/koyorin55/e/265fd5225ff6133023f410affff056a7

いま、この記事を書き換える必要があるかもしれない。というのは、バイデンが今年1月に就任してから、めざましい改革案を次々と打ち出し敢行している。もちろん、バイデン一人の力ではない、彼を支える優秀なブレーンたちの結集がある。彼らは皆、トランプ政権がもたらした有形無形の負の遺産、傷跡を速やかに修復したいと考えているに違いない。

まず、就任早々の大統領令による財政出動策では、コロナ対策として3回目の国民一律の現金給付1400ドル(約15万円)を決定し、直ちに国民のもとに届けられた(注)。10万円を1回だけの日本とは雲泥の差だ。この1兆ドルの家計支援は軽いジャブだった。

次に、低所得層だけでなく中流層向けの家族支援にもなる、幼児保育費の無償化を打ち出した。信じられないのだが、アメリカの保育園では、1か月に1000~3000ドルもかかるらしい。子どもを保育園に通わせるのに月10万円以上かかるなんて、日本では考えられない。低所得者ならば、子どもをつくろうという発想はなくなるだろう。(詳しく確認していないが、大学の2年まで教育費の完全無償化さえも企図しているとのこと)

そして、新たな雇用創出の狙いもあるだろうが、社会インフラの再整備として2兆ドルを投下するという。日本国家予算の2年分にあたる支出だ。アメリカの水道管などは100年間ほどそのままらしい。傷んだまま補修しない道路をすべて改修する。また、地方に行くと見られる木製の電柱を撤廃するなど、電源開発・送電におけるインフラ再編にも着手するという。(日本では、老朽化した水道管を取り換えることなく、民間に丸投げする動きがある。上下水道費に月に5万円も払う時代がくるかもしれない)

バイデン政権は、脱炭素とグリーン経済のみならず、上記の社会インフラにおける全面的リニューアルをめざすという。さらに、アメリカの根本的な失業問題にメスを入れ、分断化された社会の立て直しを目論む。有色人種からプアホワイトまで、全体をみすえたボトムアップである(注2)。かつての大恐慌の後に、ルーズベルトが打ち出したニューディール政策に匹敵するものだ。

その他、コロナ対策でワクチンを1日に三百万人以上に接種できる態勢を速やかにつくったが、これも惜しみない財政支出とバイデンを支持するボランティアがあった。まさに人的支援の底の厚いバックアップがあったからだ。日本の人口はアメリカの三分の一ほどだが、これほどのスピード感をもって組織的に接種できないのは何故か。

(第一に予約しないと接種できないという建付けが、日本のシステムの硬直化をしめすものだ。非常事態であるのにオリンピックの利権が頭から離れない、国家の異常事態をきちんと指摘できる人がいない。)

以上、アメリカの憲法で規定されている新大統領令によってバイデンは、6兆ドルもの巨額の資金を投入するが、インフラ整備や教育費の無償化は今後年次化される。日本の国家予算の3,4倍もの支出を新たに予算化する大胆な政策だが、それを裏付ける財源はどこからだ? 何を根拠にしたものだろうか。(追記:下線部は当初、単位を円にしていた。当ブログは、単なる凡ミスによる訂正が多し。自己都合および勝手気ままに、誤字・脱字・てにをは、その他の訂正をします)

cnn

ここにおいて、筆者がバイデンを見直さなければならない大きな根拠がある。それは、何を隠そう、富裕層や大企業への大幅(?)な増税である。1980年代、レーガンとイギリスのサッチャー政権によって打ち出された新自由主義を根底から見直した結果なのか。

データの裏付けや数理モデルもない、あの悪評高い「トリクルダウン説」を完全否定したといっていい。富裕層の税負担を軽くすることで、経済活動はさらに活発になり富裕層からの富が滴るように落ちてくる。そんな現象は今まで一度も起きたことはない。むしろ実体経済とは無縁の金融市場にだけ膨大な資金が注ぎ込まれただけだった。

正確な数値かどうか確認してないが、年収40万ドル以上の富裕層に対しては37%から40%に増税する。大企業に向けての法人税アップが21%から28%への増税を決定しているという。その他にも、上に重く、下に軽くという税収政策が打ち出されたらしい。率からすれば大した数字ではないが、アメリカの予算規模からすれば凄い数字になる、という経済専門家の評価は高い。

個人的には、これらの増税率はたいしたアップ率には思えないし、かつて富裕層には7,80%の所得税を課したこともあった。この原資を再配分することで、アメリカの分厚い中流層が生まれ、「グレートな国」になったといえる。

その後、社会福祉、社会医療に財源を振り向けると、一般の人々は奴隷のようになって国家の言うままになるだろうと、重鎮ハイエクは論じた。それを受けて、ミルトン・フリードマンは、マネタリズム、市場原理主義・金融資本主義を主張しケインズ的総需要管理政策を批判した。同じシカゴ大学で教鞭をとる宇沢弘文は、社会共通資本を核とする独自の経済理論でノーベル経済賞候補だったが、フリードマンらの趨勢に押されて帰国することになった。

自動車産業をはじめとする重厚長大なアメリカ産業は斜陽化しつつも、世界覇権のためにグローバリズム戦略を継続。おりしも、軍需技術のインターネットを民間に公開することで、ITテクノロジーというアメリカ発の巨大産業を生み出した。今日のGAFAMは、ITの隆盛なくして成立しない。

そう、GAFAMを頂点とするアメリカの大企業は、バイデンの政策を素直に受け入れるだろうか・・。また、コロナ禍にあっても金融・株式市場は揺るぎなく好調だ。テスラの社長は値上がりが著しかった暗号資産ビットコインを大量購入したが、低炭素時代やグリーン政策を支える新興企業は、バイデンの要望に積極的に応えていくのだろうか・・。

トランプが大統領になった時、大統領権限の財政出動ですぐさまメキシコとの国境に壁を建設したり、大企業や富裕層を優遇する減税策を実施した。バイデンがいま取り組んでいるのは、少なくともトランプよりも真っ当なものだと言わざるをえないと考える。

 

(注):バイデン陣営が公表した経済対策案によると、1.9兆ドルのうち1兆ドルは家計支援に振り分け、生活者1人あたりで最大1400ドルの現金を追加で給付する。現金給付は20年3月に1200ドル、同12月に600ドルの支給を決めており、今回で3回目だ。失業給付を積み増す特例措置も9月まで延長する。(日経新聞)

(注2):バイデン就任以降、アメリカ経済は堅調であり、量的金融緩和を控えるべきだという論調がある。また、企業の雇用指数も上向きである。そんな中、失業率が相変わらず高止まりで推移している。これは、バイデンによる臨時の失業給付により、失業者が再就職をためらっているらしい。コロナが怖くて働きたくないのか、それとも怠け癖がついたのか・・。未来の指標といえるベーシック・インカム、これを考えるうえでの、いい検証材料となるだろう。


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