小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

バイデンになっても、アメリカは変わらない

2020年11月15日 | エッセイ・コラム

今朝の新聞によると、ジョー・バイデンが九分九厘、アメリカの新大統領になりそうだ。これまで共和党が制していたアリゾナ州、そしてジョージア州までもが、民主党にスイングした。獲得選挙人は306人対232人となり(11月15日現在)、トランプ大統領は圧倒的に分が悪い。それでも、彼は依然として敗北を認めず、法廷闘争に持ち込む構えをくずさない。

ただし、例の不正選挙案件ではどういうわけか、各州での訴えが立て続けに退けられている。また、訴訟を担当した法律事務所も撤退を決めたらしい(訴訟費用の問題かどうか、わからない)。今後、選挙後の検証において、多少のもつれやごたごたもあるだろうが、バイデン氏がたぶん新大統領になると予想されている。

 

それにしても、トランプの人気は今も根強く、ここ日本でも彼を持ち上げ、「まだ諦めるな」とエールをおくる人たちがいる。隠れトランプは、アメリカだけではなかったのだ。国際的に孤立する傾向にあったトランプは、安倍晋三とだけは蜜月関係をたもっていたこともあり、今も日本の保守層の政治家からネトウヨまで広く支持されている。中国や北朝鮮などと何か軋轢が生じたばあい、トランプならどうにかしても日本を助けるだろう、と期待していたのか・・。

しかし、トランプは根っからのビジネスマンだから、まず金のかかる戦争はしないし、実際にも嫌いなのだ。日本が万が一、不測の事態に陥ったとしても、本格的な援助の手を差しのべることは、彼なら絶対しないはずだ。

それよりも日米安全保障のさらなる強化をネタにして、米軍駐留費の増額や新たな戦略兵器の売り込みに積極的だった。そう、トランプは徹底してアメリカファーストだった。それを考えれば、日本(=米軍基地)を犠牲にしても、自国の利益と安全を優先させるのが、アメリカの本義といえるだろう。その辺のところが、トランプをジャイアンのように慕う、子分根性が染みついた日本憂国の士には理解できない。

ともあれトランプは自分の思ったことを直截、口にしてズバッとぶつけてきた。たとい相手の憎悪を駆り立てるとしても、容赦のない感情の言葉をあびせる。そうやって自らを鼓舞し、マウントをとることを止めない。こんな大統領は前代未聞だ。だからこそ注目され、言いたいこともいえない弱い人たちの喝采を集めた。トランプみたいな人が増えるのは、行く先の見えない現代社会において、なんら不思議ではない。

人種差別だ、大言壮語だ、嘘八百のフェイクだと批判され、人格の瑕疵を攻め立てられてもいっこうに弱みをみせないマッチョ。このトランプ的なるものは幻想ではなく、現実をほんとうに変えた。そして、中流から零れ落ちた貧困白人層に、反知性主義と白人ナショナリズムのやっかいなカンフル剤を注入した。

これによりBLM、LGBTなど人種差別・人権蹂躙の深刻な社会的問題が次々と生み出されてしまった。当然の帰結として、アメリカの建国以来、病んだ腫瘍のように社会の深部に隠されたものがより露わになった。多人種・多文化・多様性を統合して行くうえでの軋轢、膿は必ずでるが、それをデモクラティックに本質的に解消したことは、アメリカではいまだに実現したことはない。それが今回、アメリカの宿痾としてさらけ出された、と筆者はおもう。

ともあれ、民主党によるバイデン新政権が誕生するからといって、トランプ的なるものが克服され、長年の宿痾は解消されはしない。多くの女性閣僚を誕生させたり、いや、新型コロナへの早急な対策がなされたとしても、多くの人々の信任はやすやすと得られないだろう。コロナ禍の後遺症は、当分の間、アメリカ国民に深い痛手をあたえ続けると思われるからだ。

しかしながら、根底的に変わらないことがある。

たとえば、アメリカのWASP(White Anglo-Saxon Protestant) といわれる白人支配層のエリート主義、人種差別的な偏向を一貫して告発している、90歳をこえる老科学者がいる。畏敬する藤永茂だ。氏は自身のブログで、「一番基本的なレベルでは、何も変わらない。BUSINESS AS USUAL のままでしょう」と。軍産複合体に基づく利権システムは政治体制がどうブレようと変わらないだろうと分析している。同意見である。

クリントン以降、民主党は方針を転換し、共和党を凌駕するべく新自由主義とグローバル戦略を採用しはじめた。実質的にアメリカを動かすWASPの官僚機構と、金融ビジネスのユダヤ資本が、それに便乗しないはずがない。内向きを外向きにすることは、現在のGAFAの隆盛をみるごとく、先端情報テクノロジーとワールドワイドな多目的サービス産業にシフトしたことと同義だ。そのときに、自動車産業をはじめとする重厚長大な企業はなかば見捨てられ、それを気づかない白人層はプア化していく。

現在の社会の分断による諸相はここに求めらるし、そんなときに民主党のなかで犯罪対策強化と称し、黒人や弱者をかんたんに牢屋にぶち込むような政策をしていたのがジョー・バイデンでもあった。調整役としても優秀で、共和党主流派とも連携したところは、彼ならではのインテリジェンスなのかもしれない。若い時に交通事故で家族を失い、失意のなかから政治家としてステップアップした歩みは、今でこそ心温まるエピソードとして伝えられるが、バイデンのプラグマティックな面も見落としてはならないだろう。

こうしてみると、民主党と共和党の差は、政策的にはそれほど明快ではない。しかし、有権者は生活信条や宗教観、進歩や伝統などの考え方、指向性、ライフスタイルの違いで決定すると思われるが、たとえば人工妊娠中絶の是非それだけの要因で決定する人も多いときく。選択の幅が狭く、連邦政府の施策とは実際には深くかかわっていない。アメリカがどうなっていくのか、誰にもわからないのだが、先にしめした実質的な支配層だけが、そうした差配を都合よくコントロールしているのかもしれない。もちろん陰謀ではなく、彼らの厳とした意思による。

また、長くなってしまった。アメリカの政治家のみならずエスタブリッシュメントといわれる人たちの非情なところ、つまり人種差別主義的なエートスについて、もっと触れたかったのだが・・。

実は、『菊と刀』の作者、文化人類学者ルース・ベネディクトの『レイシズム』を最近読んだのだが、そのこととも関係している。それは次回ということで、ここで一旦筆をおくことにする。

 

 


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