鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

151 鬼門の鬼百合

2020-07-23 13:30:00 | 日記

長引く梅雨に鎌倉の古い木造家屋はみな黴に悩まされている。

鎌倉は東京に比べて気温は34度ほど夏涼しく冬暖かいが、梅雨場の湿度は高く避暑避寒の地としては唯一の欠点であろう。

今週は梅雨もまだ明けないのに近所の路地に鬼百合が沢山咲いて、一方で昔ながらの鉄砲百合が姿を消してしまった。

旧幕府の鬼門にあたる谷戸で鬼百合が増えたのは何の予兆なのか、当代鬼門守護職として調べなくてはならぬ。


ーーー鬼百合の反りて差出す蕊強(こわ)しーーー


普通の百合に比べて鬼百合の花びらは極端に反り返っているので、突き出た蕊がやけに目立つ。

色も強く斑点も強く、この花を「鬼」と名付けた人は慧眼だったと思う。

写真は先週に続き90100年前のオールドレンズで撮っている。


この昭和レトロの床屋さんも先年閉店してしまったが、花壇の手入れだけはしているようだ。


ペンキの剥げた窓枠や引戸などは如何にも今流行りのシャービックで、オークションに出せば結構高値がつくだろう。


この数年で谷戸の旧家が次々と売られて、丹精された庭園諸共更地にされてしまった。

古き良き鎌倉の美しき路地も徐々に姿を変えて、やがては唯の新興住宅地と同じになって行くだろう。

鎌倉の隠者たるこの身の使命は、滅び行く谷戸の美の最後の証人となる事かも知れない。


ーーー破垣(やれがき)を越えて溢れる花々の 殿として立つは鬼百合ーーー


鬼百合の咲く順路をぐるっと抜けて、コンビニでパンとフライドチキンを買って帰る。

そんな質素な昼食のBGMは往年の名曲カーペンターズのイエスタデイワンスモアで、美しかった過去の散歩道の幻視に浸るのだ。


我が荒庭の百合(白百合しか無い)を大正頃のアールヌーボー風のガラス器に活け、底辺に追憶のシノアズリの魚を泳がせば、大正の鎌倉文士達の和洋折衷の暮しを偲ぶに良き寸景となろう。

ーーー荒梅雨の玻璃の花瓶の青影に 陶(すえ)の魚の泳ぐ文机ーーー


©️甲士三郎