歴史を深く読み解けば過去の人類の産業経済、科学技術、文化芸術、時には軍事行動でさえ、その全ての奮闘努力はより良い暮しを求めての事となろう。
ただ良い暮しと言っても金さえあれば満足な人もいるし、深い精神性を希求する人もいる。
いずれにしても個人個人としては良い暮しの具体的な様式が見えていないと、往々にして拝金主義に陥った末に幾ら稼いでも安寧な暮しには至れない。
より良い暮しのビジョンを得るために最も参考にすべきは、それぞれの民族が長い時を掛けて磨き上げて来た気候風土に合った伝統的な生活様式の他はないだろう。

鎌倉に残る古い家々や文士の旧居を見れば、粗末な陋屋であろうと真の日本の良家たる暮しを偲ぶ事が出来る。
日本は明治維新からの脱亜入欧政策や昭和の敗戦で、それまでの日本文化を担って来た知識層と伝統の生活様式を失い、一億総中流の似非洋風生活になった。
その為現代では経済的に豊かな家でも戦前の名家旧家のような精神文化は無く、目指すべき生活様式を喪失してしまった。
例えば英国では今も貴族文化の良い面は残っていて、ビクトリア朝時代の建物にアンティーク家具や美術品を揃え、ローズガーデンの茶会で芸術論を交わすような暮らしを規範としている。

私が思うに現代日本人が目指すには、大正昭和初期の和洋折衷の生活が良い参考になると思う。
千年の叡智の結晶とも言うべき伝統的な暮らしに、現代の電化製品を加えるだけで現代日本人の理想の暮しと成り得る。
自然に溶け込んだような古い日本家屋で(正座は無し)床の間に書画や花を飾り、簡素ながらも季節と風土に即した衣食と、農耕や自然に纏わる神事行事などを楽しむ生活だ。
上の英国の例で言えば19世紀のカントリーコテージの暮しと似ている。
その辺を基本に据えて各々の好みを加え、子孫にまで伝えられるような理想の暮しを工夫して行くべきだろう。

今週の写真は若い頃使っていたライカやクラシックカメラで撮っている。
正に大正昭和初期の鎌倉人が使っていたであろう機種で、レトロな描写を感じて頂ければ幸いだ。
今後も折につけ古風な景には古式写真機を使おうと思うので、いずれ詳しく紹介しよう。
©️甲士三郎