鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

80 様式なき生活

2019-03-14 14:03:40 | 日記
ここ数回に渡って古い家屋と家財の話をしてきたが、残念ながら現代日本には住宅建築にも高級マンションにも、あるいは家具インテリアにも美的な様式と言える物は見い出せない。
ましてや後世に遺すべき美しさや深い精神性、重代の愛着などは望むべくも無い。
よって我が国の生活様式としては、前々回に触れた大正から昭和初期の和洋折衷様式が最後の美意識の込もった物だと思う。
ここ鎌倉では古き良き和風家屋も洋館も次々と壊されていくが、今風の分譲住宅の様式の無さ思想の軽さでは到底子孫に及ぶ精神性の向上は望み薄いだろう。


(竹久夢二の樹下美人と吉井勇の片戀初版本)
美しい人生を送りたいと思うなら邸宅庭園は無理にしても、一室かせめて卓上の一画だけでも父祖の美的レベルを上回りたい。
書画調度品などなら入手も保存も楽なので、三代後の家宝になる物を何か一つは遺したい。
先祖代々その国その気候風土に即した重厚な生活様式や美意識からしか育たない精神と思想こそが、最も強靭に血脈に刻まれて行くのだ。


我が家の荒庭も作庭は大正頃で、松竹梅の寒中三友も樹齢100年程になる。
写真の背景の枝垂梅は10年ほど前の大雪に大枝を折ってしまった姿が、返って凄まじい美しさを感じさせる。
隠者と老梅とカップ二つでコーヒータイムにしてみた。
---西行を埋めし桜は千歳経て 半身の朽ちし鬼木となりぬ---(旧作)
梅と桜の違いはあるが、その美は通じると思う。
良い花木くらいは何百年でも生き延びさせてやりたい。

平成ももうすぐ終るが個々人が子孫の範になるような精神生活を再構築しなければ、昭和後半から平成は膨大な財政赤字とゴミの山しか残さなかった暗黒時代と子孫達から恨まれるだろう。

©️甲士三郎