鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

62 詩人の旅姿

2018-11-08 14:54:10 | 日記
旅の詩人と言えばイメージは格好良さそうだが、現実を見ればきっとがっかりすると思う。
知合いの俳人歌人達の吟行旅行でも、その実態はただの温泉グルメ客だ。
奥の細道の冒頭には旅の編笠や股引を準備している記述があるが、昔の長旅は生きて帰れる保証など無く文字通り死出の覚悟だった。
我々も旅情を深めるために覚悟を決め、まず姿形から正そう。

コートもブーツも旅塵に塗れて襤褸な程に、孤絶感が深まる。
着古しやアンティーク物がベストだが、無ければダメージ加工の新品でも良い。
旅鞄もまた磨り減った革か麻の肩掛け型に限る。
中世ファンタジー映画を見れば(ホビットのガンダルフなど)、その多くがくたびれたショルダーバッグなのでこれで間違いない。
手拭い代わりになるストールも良いだろう。
雨具は敢て傘ではなく帽子かポンチョにしたい。
傘があっては味わえない雨の旅路の心細さには格別な趣きがあるのだ。
隠者はいつものフードで万全だ。
大雨の日は宿に足止めで、絵や詩句の仕上げをしたり手紙を書いたりする。

(普段の隠者の格好と大差ないが、バッグが大型)
次に装備品。
現代の旅は最低限財布とスマホだけあれば済むとしても、漂泊の詩人が旅に持つべき物は(着替と洗面用具は別にして)まず筆墨に料紙綴だ。
これはまあタブレットでも良いが、私は画業が主なのでペンと小さなスケッチブックに小型カメラは常に持っている。
詩作にも紙とペンのようなアナログ道具の方が重厚感が出る。
携帯食とピューターの水筒にお茶を入れ、サバイバル用ナイフと先月買った小型カンテラをウエストベルトに付ければ山も夜道も安心だ。
あとは共に旅してくれる守護神像か護符が欲しい。
隠者には三美神像(前出)がついているので、恐れるものは無い。
これで気持はすっかり中世の旅人で、世間の詩人に抱くイメージにも叶う風姿だろう。

最後に車は絶対駄目だ。
運転中はよそ見も思索も幻視も出来ないし、良い景色や花を見付けても大抵の路肩は駐車禁止なのが致命的なのだ。
電車や飛行機は使うとしても、その先は歩いて路傍の風物を楽しまないと旅の意味がない。
そもそも目的地に直行する旅を漂泊とは言わないのだ。

---翔べるほど大きなマント古びれば 魔力の宿る詩仙の旅路---

©️甲士三郎