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あるとき鹿野が、「太郎、久しぶりにタバコ吸いたい。タバコ買ってきて」と言い出した。
鹿野は若い頃、タバコを吸っていたそうだが、気管切開をして人口呼吸器をつけて以来、さすがにタバコはやめていた。しかし、山内には、呼吸器をつけている鹿野がタバコを吸うのは明らかに〝害〟であると思えた。極端な話、「自殺」に手を貸すようなものだと。
「やめた方がいいんじゃないの」山内がいうと、
「いいから」と鹿野はいう。
「オレは、なんかそういうのはイヤなんだけど」
内心、「言っちゃっていいのかな」とためらいながらも、山内としては「」それが大きな賭けでもあったという。鹿野に「やだ」とはっきりいった。
「ただでさえ、オレにはストレスが多いんだ。太郎、吸わせろ」
「やだ」
「太郎!」
「やだ」
「てめえ、コノヤロー、吸わせろ」
何だかんだカンシャクを起こしたあとで、鹿野は「もうわかった。太郎には負けたよー」といった。
この時の体験が、その後もボランティアを続けていく上で、ひどく重要だったと山内はいう。
「シカノさんが『吸いたい』っていうから、吸わせてやればいい。それが『介助』だって言えばそれまでなんですけど、そのまま黙って従っていたら、多分ストレスがたまってボランティアやめちゃってただろうなと、今になって思うんですよ。それに、シカノさんにとっても、ボランティアが単なるイエスマンだと、おもしろくないんじゃないかなと思って」
渡辺一史 『こんな夜更けにバナナかよ』より 文春文庫
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障害者・福祉関係の本で久々にいい本に出合えた。
と言っても、この本はそんな範疇には収まらないのだが、、、。
成熟した?とされる高度資本主義の元で荒廃した精神ををどうしようか、思いあぐねている若者達が、「俺は普通に生きたいんだ!」と叫ぶ重度身体障害者の鹿野とバトルを繰り広げる。
一方は生きる事の不全感を感じつつも何をしたらいいのか分からない。
もう一方は、単純にいのちを生きる事に懸命。
双方、一生懸命で必死と必死のぶつかり合い。
解答はないけれど、その双方の葛藤に羨望を感じるのは徳さんだけではないだろう。
『ベッドに横たわる鹿野は、死線を何度乗り越えようと、まな板に大きな生肉がドタッと載っかっているような、生々しい「自我のかたまり」である。』
さあ、俺たち、どうする?
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