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おうめは日頃に似ぬしっとりとした視線を仁助と美代に向けた。二人は身じろぎもしないでいた。
「ナマンダブ言う口の下から、大枚下されと手を出す坊さまのことも、あたいはよう知っておりやす。アメンの衆にも、ろくでもなかはずれ者はおる。まさかデウス様が、観音様を焼打ちにせろと申されたとは、あたいには思われやせん。
あたいはここのお家に来て、本物のデウス様と本物の人の姿を見せてもらいよります。父っつぁまの願かけなさいた観音菩薩とマリア様が二人逢われたなら、仲良う、いよいよ優しゅうなられるとあたいは思いやす。仕事が出来る間はマリア様と観音様にお仕えして、ここのお家に居らせてもらうつもりでござりやした。おなごが言うのも何じゃが、昨夜のお話、切支丹でなくとも、あたいはとっくに同心のつもりでやした」
おうめは倉の片づけ物でもする口調になった。
「戦さは刀、鉄砲ばかりで出来るものじゃなか。鍋釜を抱え包丁を取り、石臼をひく者が居らんことには。そのいずれも、あたいはまだお美代さまより働き上手でござりやす」
おうめは自分の言ったことがおかしかったのか、くすりと笑ったが、唇をゆがめて涙をこぼした。
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徳川3代将軍家光の治世下で起きた島原の乱を扱った石牟礼道子の小説だ。
でもそこに描かれているのは、戦闘ではない、乱ですらない。
乱に至るまでの天草・島原地方の農民、今の言葉でいえば庶民の生き生きとした生活が描かれている。
そして、彼らを取り巻く自然がきめ細かく描かれている。
飢餓や、過酷・無情な年貢の取り立てを背景にして、人々は雑草をも感謝の対象とし、次に訪れる春を待望した。
極限的に虐げられながらも、人々は生きるすべを、自然の恵みに対する感謝する心を持っていた近世。
対しましての我らのテクノ文明、、、。
乱というものを題材にして、乱から一番遠い所にいる人間群象を描いた小説ともいえる。
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