カイロじじいのまゃみゅむゅめも

カイロプラクティック施療で出くわす患者さんとのやり取りのあれこれ。

海堂尊『輝天炎上』

2013-08-11 17:43:00 | 本日の抜粋

     ***************

 看護婦が近寄ってきた。美智の担当でベッドサイド・ラーニングの時にたいそう世話になった人で、さっきもずっと美智の傍らにいて、僕に的確な指示を出し続けてくれた女性だった。たぶん僕と年齢はそんなに変わらないはずなのに、病棟ではすでに中堅どころを担っている。
「このカルテを読んでみてください。田口先生の、不定愁訴外来専用のカルテです」
 彼女が手にしていたのは、さっきまで田口先生が書き綴っていたものだった。
 カルテを開いた途端、紙面から文字があふれ出した。膨大な記述の中から美智の姿が浮かび上がる。悪態が正確に書き留められている。僕のベッドサイド・ラーニングの様子も描写されていたが、思わず赤面したくなるくらいの忠実さと正確さだった。
 そこに田口先生の言葉はなかった。ただひたすら、美智の言葉だけが書き留められていた。
 そこには美智がいた。
 美智は僕の手の中で命を失った。だけどそのぬくもりは今も手の中に残っている。同じように、今も美智はここにいて、このカルテの中で息づいていた。
 罵倒の言葉が羅列されている中に一粒、真珠が交じっていた。
 それは僕に向けられた言葉だった。
――天馬は必ず、立派なお医者さまになろうもん。
 医療は、こんなことまでできるのか。

 海堂尊 『輝天炎上』より 角川書店


     ***************

例によって、抜粋部は本の筋立てには関係ないところ。

美智というのは、末期ガンの患者。老女。何かにつけ、悪態をつく。
この抜粋部は美智の臨終の場面。

天馬は落第を繰り返してきた医学生で、美智とは過去に因縁がある。
早くに両親を失くした天馬にとって、家族のような親近感を感じている。

偶然に、天馬のベッドサイド・ラーニングの受け持ち患者となった。

田口は患者の精神面を見る内科精神医。

医療はこんなことまでできるのか?
というつぶやきはこの場面で二度目。
一度目のそれは、心肺停止になった美智を、看護婦に教えられながら天馬が心臓マッサージを施し、一度蘇生した時につぶやかれる。

この二度のつぶやきは、本来の医療とはイメージが違うように思えるが、天馬をして医師へなることへの強い意思を植え付ける。

この小説自体は、無理な仕掛けが多すぎるのと、なまじテレビ化などされた関係か、若者に媚を売るような文体が目立って、徳さんの評価は余り高くなかった。
抜粋部の周辺では泣いてしまったけど、、、、。


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