金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(帰省)127

2019-08-21 06:44:43 | Weblog
 馬は今日も快調だ。
四つの蹄をパカパカと響かせて進んで行く。
反してアリスは不機嫌。
『面白くな~い』
『我慢我慢、もう少し行くと良いものが見られるからね』
『何が見られるの』
『驚くものだよ』
『教えてくれないの』
『それは見てからのお楽しみ』
 フ~ンとばかりにアリスは飛翔した。
『どうするんだ』俺は尋ねた。
『暇潰し』
 思い切り急上昇した。
姿は見えないが馬も気配で分かったらしい。
顔を斜め上に向け、「ブルルン」鼻を鳴らした。
 俺は探知スキルと鑑定スキルでアリスを追いかけた。
脳内モニターを分割してアリス追跡用を立ち上げ、マークした。
この甲斐甲斐しいばかりの世話焼き、俺はおかんか。
 アリスの暇潰しは魔物狩り。
ザコ魔物には飽きたのか、ほどよい手応えの魔物を探しては狩って行く。

 空気に漂う香りが変化した。
四日市宿場が近いからだろう。
高台から右手を望むと、それが見えた。
俺はアリスを呼んだ。
『アリス、こっちに来いよ』
『ようやく呼んでくれたわね。
もしかして、お楽しみのもの。
直ぐに行くからね』
 アリスが猛スピードで駆け付けた。
その途中で言葉を失ったらしい。
俺の肩に乗ったはいいものの、耳を掴む手が震えていた。
 高台の向こうには青い海が広がっていた。
遙か先まで続く大海原。
水平線には白い入道雲。
海と空の青に、白い雲、サンサンと輝く太陽。
 風が運んで来た潮の香りがアリスの鼻を擽った。
『クシュン』
『これが海だよ。
湖の水とは違って、しょっぱいよ』
『広い、広い、広い』譫言のように言いながら、海へ飛んで行った。

 俺も高台から浜に下る道を見つけた。
外壁に囲われた宿場の外なので途中に人家はない。
それでも畑が点在するので、道は整備されていた。
砂浜までは下りない。
馬を帯同しているので手前の木陰で足を止めた。
魔物の襲撃も想定して馬は繋がないでおいた。
 改めてアリスを探した。
姿は見えなくても魔波を追えば位置は分かる。
性格か、真一直線に水平線に向かっていた。
まったくもう、妖精まっしぐら。
このままでは追跡を振り切ってしまう。
俺は慌てた。
『止まれ、止まれ、アリス』
 返事が返ってこない。
直ぐにモニターから消えてしまった。
どうしよう。
空を飛べれば直ぐに追いかけたい。
でも飛べない。
他に手は、ない。
帰りを待つしかない。

 アリスは水平線を目指して飛んでいた。
でもいつまで経っても辿り着かない。
雲ですら遠い。
分かったのは空の青と、海の青の違いだけ。
 海面スレスレでホバリングし、波の味見をした。
ダンタルニャンが言っていたように、しょっぱい。
でも味に深みがあった。
 感心していると、何かが勘に触れた。
嫌な魔力の塊。
気配察知で探した。
急接近してきた。
真下から一直線に向かって来た。
海中に黒い影。
波の揺れで、あやふやな形状だが、生き物であるのは確か。
湖の魚とは明らかに違う大きさ。
 それが姿を現した。
垂直に飛び出して来た。
口を大きく開けて、アリスを丸ごと飲み込もうとした。
 不意を突かれたアリスではあるが、
脳筋だけに何の考えもなしに反射神経が働いた。
空中で後退って躱した。
 飛び出して来た物は魚に似ていたが、大きさが尋常ではなかった。
開けている口も嘴のよう形状。
ぐいぐい上に伸びて行く。
途中、片目がアリスを捉えた。
濁った目色。
それは勢いのまま海面から空中に身を躍らせた。
 全身が鱗で覆われていて体長はおおよそ5メートルほど。
嘴を持つ細長い魚だ。
空中で身を捻り、尾びれでアリスを叩き落とそうとした。
これも躱されると、体勢を立て直しつ、嘴から海中に戻ろうとした。

 アリスはようやく自我を取り戻した。
妖精魔法を放った。
尾びれを掴み、空中で固定した。
逆さになった奴が激しく抵抗し、
身体を左右に揺らして力で逃れようとした。
 海の魔物だ。
それなりに対処しなければならない。
が、が、初見、海の魔物への対処は知らない。
そこで思い付いたのが、魚の活け締め。
 まず奴の頭部にウィンドスピア、風槍を放った。
外皮が頑丈なのか、仕留めるには至らない。
でも刺さっただけで充分だった。
奴の動きが鈍った。
念を入れて風槍を二本追加した。
ついに動きが止まった。
それでも仕留めきれてはいない。
しぶとい。
 次は〆だ。
近付いてエラに触れ、手を差し込んでウィンドカッターを放った。
手応えあり。
血がドバドバと流れてきた。
今度は反対側のエラだ。

 空中で固定したまま血を抜いた。
海面が赤く染まる様は不気味。
そこへ血の臭いに誘われたのか、海中に群れなす魚影。
魚か、海の魔物かの区別がつかない。
 奴がようやく息絶えた。
そうなれば次はご褒美の魔卵だ。
気配察知と勘働きで念入りに探した。
魔力が色濃く残っている箇所にウィンドカッターを放った。
縦横斜めに切り分けると、それがあった。
でかい。
海の魔物の魔卵を手に入れた。
 油断していた分けではないが、再び海の魔物に襲撃された。
離れた海面から飛び出して来たのだ。
白くて大きな塊。
鱗はない。
手か足かは知らないが、長い触手のような物を何本も伸ばしながら、
勢いに任せて向かって来た。
 アリスは魔卵を収納し、上に逃げた。
そこまでは追って来られないようだ。
と言うか、目的はアリスではなくて活け締めた奴だった。
触手で抱くように掴み、九割方を引き裂いて海中に消えた。
残してくれたのは妖精魔法で固定していた尾びれのみ。
 安心したのも束の間、アリスは自分の置かれた状況に気付いた。
周囲は海のみで陸地は欠片も見えない。
焦って右往左往した。
『ダンタルニャン、ダンタルニャン』叫んでも答えはない。

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