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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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なりすまし。(99)

2016-08-28 07:33:02 | Weblog
 姫を抱いて飛んだ俺の背中を強烈な殺意が襲う。
同時に刃風を後頭部で感じ取った。
ドスンと音。
欄干に斧が食い込んだに違いない。
斧の小町より俺の方が僅かに早かった、と知った。
 足裏に激しい衝撃。
水圧。
耳元を襲う姫の二度目の悲鳴。
まるで断末魔の叫び。
宥めて安心させてやりたいが余裕はない。
川面を割って沈んで行く。
 俺は五感を働かせた。
他に飛び込んだ者がいないか、・・・。
斧の小町の追撃のみが唯一の気懸かり。
奴は泳ぎが苦手と推測しているのだが、・・・。
 足裏で川底を捉えた。
俺は軽く膝を曲げて川底を蹴った。
推測通り追撃はない。
安心して浮かび上がるだけ。
 きつい。
姫を抱いているだけではない。
二人の衣服が水を吸っているので、その重さは優に一人分。
二人を抱えているに等しい。
それでも必死、片手で水を搔いた。
着衣泳ぎの経験はあるが、それは職務としての訓練。
実際には経験していない。
二人を抱えての経験もない。
必死で藻掻いた。
腕がもげても、と片腕に力を込めた。
 川底を蹴った反動と片腕の力技、というより思いの外、大川は浅かった。
疲れるより先に水面から首を突き出した。
満天の星が俺達を迎えてくれた。
俺の隣では姫がまだ藻掻いていた。
水を多少は飲んでいるようだが、生命に異常はなさそう。
姫の耳元に怒鳴った。
「おちつけ、おちつけ。
大丈夫、大丈夫。
身体の力を抜いてくれ。
俺が川岸まで連れて行く」
 返事代わりに水を吐き出す姫。
彼女は理解する力は残していた。
息こそ荒々しいが温和しくなった。
そんな姫を抱き寄せて片手で泳いだ。
当然、千住側ではなく江戸側へ向けて泳いだ。
 橋の上から強烈な明かりが届いた。
幾つもの龕灯が俺達に向けられた。
なかには川岸を照らす龕灯もあった。
戦いの最中の、この余裕振り、・・・。
もしかして、・・・。
耳を澄ませば、剣戟の響きも銃声も聞こえない。
戦いが終わった、・・・。
斧の小町を始末したのか、・・・否々、逃げられたのだろう。
絶対に逃げられたとしか思えない。
 一艘の川船が俺達の傍にスッと寄って来た。
一人、お猫様が乗っていた。
俺の脳内に、「斧の小町は逃げたわよ」伝え、片手を差し出して姫の手首を鷲掴み。
強引に引っ張り上げようとした。
「痛い」と漏らす姫。
慌てて俺は姫の尻を押し上げた。
 上半身から横向きになってドッと川船に落ちる姫。
船外に残った足を俺が押し込む。
途端に川船が俺から離れた。
「悪いわね、定員は二人なの」お猫様が言い捨て、川岸に向かう。
 向かう先の川岸に武士達がわらわらと駆け下りて来た。
生き残っていたのだろう。
女武者二人が男共を掻き分け、最前列に進み出た。
川船が着けられると二人して乗り込み、姫を担ぎ上げようとした。
すると姫の拒否する声、「みっともない、一人で歩けるわ」と立ち上がり、
ふらつきながら川船から下りて行く。
 俺は堤を上がる姫の後ろ姿を見送った。
それから俺は、ゆっくり川岸に泳ぎ着いた。
出迎えは一人もいない。
みんなは姫と共に堤の向こうに姿を消していた。
龕灯の明かりもない。
まあ、それはそうだろう。
姫は雇用主の娘。
俺はただの馬の骨。
忘れられても仕方ない。
 否、一人いた。
川船にお猫様がいた。
俺の脳内に、「取り残された濡れ鼠発見」と言いながら、跳んで俺の隣に着地した。
嘲笑い。
そして、「またね」と言い捨て、堤沿いを下流に、足早に歩み去って行く。
 俺は天を仰いだ。
満月。
満月だけが俺を見ていた。
あっ、何かが、欠けていた。
そう、狐火。
頭上から消えていた。
探すとそれは千住宿側にあった。
一箇所に留まらない。
流れるように北へ移動して行く。
感心なことに今も執拗に斧の小町を追跡していた。
と、それが、・・・激しく左右に揺れ、忽然と消えた。
待ったが二度と現れない。
狐火を操っていた狐が見つかって殺されたのか。
たぶん、そうに違いない。




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