「格差是正」が錦の御旗のバイデン政権 実は分断を煽っている?
2021.05.03(liverty web)
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《本記事のポイント》
- 再分配を続けるとキューバや北朝鮮化する
- 富裕層も貧困層も互いに生かし合っている
- 人的資本を高めればチャンスの平等を生かせる
バイデン政権は、トランプが「分断」したアメリカを一つにすると、「国民の団結」を訴える。そのため4月28日(現地時間)に行われた施政方針演説でも、富裕層に「公平な負担をしてもらう」と要求し、格差是正を訴えた。
具体的には、トランプ前大統領が21%に下げた法人税を28%に、所得税の最高税率は37%から39.6%に、また所得が100万ドル(約1億900万円)以上の富裕層に対するキャピタルゲイン課税の税率を連邦レベルで現行の2倍以上の43.4%に引き上げる。
格差がある限り分断が癒されない──。政府が国民からお金を税金という形で徴収し、それを再分配するのが正しいというのが格差是正の基本的なコンセプトだ。では格差是正で、本当に国民を団結させられるのか。バイデン政権のやり方を見ていると、むしろ分断を煽っているように見えてならない。
見えるものと見えないもの
政策が依拠するのはケインズ政策。経済学者のスティグリッツ氏やクルーグマン氏などがそれを裏付ける理論を提供する。スティグリッツ氏は「金持ちは貧乏人より貯蓄額が多いため、所得分配が不安定だと消費が減り、分配が平等な場合と比べて経済成長が鈍る」と主張する。政府が超過貯蓄を吸い上げて、再分配するのが正しいという結論になる。
しかしケインズ経済学批判を行ったラッファー博士が述べているように、受領側への影響は「入ってくるお金」を見れば分かりやすいが、取られた側にどのような影響を与えているかの説明は滅多になされることがない。取られた側は、それを子供の教育や、歯医者にかかる費用や、会社の設備投資に使ったかもしれない。その機会損失がどれぐらいであり、道徳的にも正しいのかどうかが検証されないまま、政府がばら撒くのが正しいという考えが一方的に押し付けられるわけだ。
働いても半分以上取られるとなれば、労働の対価が下がるため、「持てる者」の働くインセンティブが下がってしまう。もし起業家的才能を持つ人が、高い手当をもらえるので、遊んで暮らした結果、将来何万人も雇えるような会社を起業するのをやめてしまったらどうだろう。将来の雇用機会の消失は、社会にとっても損失ではないか。
それだけでない。持たざる者に配る度に、その人は働かなくても代替的な収入が得られる。そうなると、全ての人が生産を減らしてしまうことになる。
再分配を続けるとキューバや北朝鮮化する
そうなればむしろ経済成長率は鈍化。そのうち総生産はゼロに近づいていく。全ての人が貧しくなった時にしか、格差是正による「平等」は実現しない。今の北朝鮮やキューバ、ベネゼエラのケースを想起すると分かりやすい。
アメリカの左派は、そんな悪いイメージを回避したいため、北欧の例を挙げるが、デンマークやスウェーデンなどの北欧諸国でさえ行き過ぎた再分配で、働く人が大幅に減少し、政策転換を迫られている。
アメリカでは前職よりも高い失業手当を貰った人たちが、仕事に復帰しないケースが増えている。結果として、需要に対して労働の供給による生産が追い付かず、インフレ傾向にある。
これについてローレンス・サマーズ元財務長官は、「(これほどの規模の景気刺激策は)第二次世界大戦に近い規模の経済刺激に匹敵し、インフレ圧力を引き起こす可能性がある」と警告。バイデン政権はこの警告をまだ真剣には受け止めていないようだ。だがインフレは増税そのもの。庶民の生活に打撃を与えるのは間違いない。
再分配ではなく、減税や規制緩和で働きやすい環境を整えることでこそ、人々の働くインセンティブが高まり、生産・投資・雇用が増え、好循環が始まる。
トランプ政権下では、全ての階層の所得が上昇し、黒人の失業率も過去最低となり、これを実証した。豊かな人がますます豊かになるが、貧しい人々はいっそう貧しくなるというのは、"プロパガンダ"に過ぎないことが分かるだろう。
ラッファー博士は、39歳の時点で書いた米ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムで、こう述べていた。
「『資本対労働』や『富裕層対貧困層』など、競合しているとされる階層は、利益をお互いにもたらしている場合がほとんどです」「どちらかの階層が恩恵を受けると、全員が利益を得る立場に置かれます。つまり各階層の多くは、敵対関係にあるどころか、互いに全ての人の成功と結びついているのです」(『ザ・リバティ』6月号掲載)
富裕層も貧困層も互いに生かし合っている世界に住んでいるというのが真実である。ほかの人を犠牲にしても構わないと考える再分配型の経済政策を訴えるのは、この美しい世界が見えていないのかもしれない。
経済学における所得とは
そもそも経済においては、所得とはどのような時に発生するのか。高名な経済学者で今年亡くなったばかりのウォルター・E.ウィリアムズ氏は、こう述べる。
「現実の世界で所得は、ほかの人に役立つ能力、つまりその人の生産性に基づいて獲得されるものです。大工として家を修理したり、化学者として新薬を発明したりすることで、他の人に役立つことになります。ほかの人に役立った証拠としての『成果に対する証明書』としてお金をもらうのです。他の人に役立てば役立つほど、そのサービスに対して多くの価値が与えられ、より多くの『成果の証明書』を受け取ることができます。この方法で誰が何を得るべきなのかを決めるということが、道徳的であるように思うのです」
「この世に生まれたことに意味を見つけ、ほかの人のお役にも立てる人生を生き切り、そして、この世を見事に卒業していくことこそ、大事なことである」。大川隆法・幸福の科学総裁は著書『秘密の法』でこう説くが、他の人の役に立って初めて報酬が意味を持ってくる。
さらにウィリアムズ氏は、こう述べて再分配を批判する。
「ほとんどのアメリカ人は、奴隷制は唾棄すべきものだと思っています。しかし奴隷制の本質に対して同じように思っているわけではありません。ある人がほかの人の目的に強制的に奉仕させられるという環境に置かれることが奴隷制の本質です。連邦予算を見ると、ある人がほかの人に強制的に奉仕させる一義的な役割を負っているのは連邦政府だと分かります」
ウィリアムズ氏は黒人の経済学者。その彼が、現在の米連邦政府がやっているのは、"奴隷制"だと批判する。これには左派の経済学者たちはさぞ反論がしにくいだろう。
ここまでくると、再分配は経済成長を押し下げるのみならず、非道徳的でさえあることが分かるのではないか。民主党の左派は、「アメリカは奴隷制の歴史を持つ国だ」という罪悪感を子供たちに植え付けているが、その彼らが、奴隷制と本質的に同じ政策を行い、階級闘争を煽っている。これほどのアイロニーはないだろう。
人的資本を高めればチャンスの平等を生かせる
「格差」があるのは許せないという人は、もしかしたら個々人の能力に差があることにも納得がいかないのかもしれない。多くの人は、マルクスの労働価値説の素朴な価値論から抜け出せていないため、生産するのにいかに多くの労働時間の投下が必要であったかという投下時間の長短で物事を考えてしまいがちである。
確かに「土地」が富の源泉だった農耕社会では、朝早く起きて夜遅くまで働いた者の生産性は高かったかもしれない。それでも生産性の高い農家とそうではい農家との違いは、せいぜい2、3倍。しかしスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなどの発明家は、単に労働時間が長いというよりも、創造性のある付加価値の高い仕事を提供し、富を創造している。
逆に言えば「土地」に縛られなくなったので、貴族政が崩壊し、誰もが豊かになるチャンスが得られる民主政が開けたといえる。機会の平等が増したのだ。そこで大切になってくるのは教育である。
大川隆法・幸福の科学総裁は、著書『資本主義の未来』において、次の時代の教育のあるべき姿をこう説いている。
「日本の資本主義が今後も続いていくための一つの手は、『創造的頭脳を数多くつくっていかなければいけない』ということです。
その意味で、教育の生産性を高めなければいけません。これが非常に大きなポイントの一つになると思います。(中略)
宗教的に言えば、『インスピレーショナブルな頭脳』をつくらなければいけないということです。(中略)
『いかに的中率の高いインスピレーションを降ろす方法を生み出すことができるか』『的中率の高いアイデアを出せるような教育ができるか』ということをやることができたら、素晴らしいスーパー教育ができるということです。
この場合、『未来型資本主義が、ここに生まれる』ということが、一つ言えると思います」
教育の質を高めていけば、国民一人ひとりの市場価値を100倍にも1000倍にも高めることができるはずである。
政治家は、貧しい人を政治的に扇動したほうが「票」になるので、格差論に飛びつくが、それでは貴族政のようにかえって貧困層を固定する。むしろ創造性の高い国民を輩出し、新しい事業に乗り出していける社会をつくることが、いま政治家に求められていることであろう。
(長華子)
【関連書籍】
『資本主義の未来』
幸福の科学出版 大川隆法著
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