天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

船戸与一の満洲読了

2019-01-11 06:44:27 | 


船戸与一の『満洲国演義9 残夢の骸』を読み終えた。
よくもまあこんなに長いものを書いたと思うが、これくらい書かなければならぬほど満洲は日本にとって世界にとって大事件であったとも思う。船戸さんの執念を感じた労作であった。

船戸さんがことさら強調したわけではないが、1930年代にアメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーズベルトが日本が戦争を仕掛けることを国務長官コーデル・ハルと手ぐすね引いて待っていた、というのが一番の教訓であった。
アメリカは大恐慌でルーズベルトはニューディール政策をとったがそう実効が上がっていなかった。経済の沈滞を一気に打開するのは戦争という大量消費活動である。
それを自らするのは倫理的に問題がある。敵が仕掛けてきたら言うことはない。乗ってやれ、助かる、という為政者の心理を船戸さんは浮彫りにして見せてくれた。

ぼくは政治家の心理についてまるで能天気であったと67歳になって気づいた。政治家だって悲惨な戦争は嫌いなはずだから好きで戦端は開かないだろうと素直に思っていた。
けれど一国を牛耳る権力者は非情でなければつとまらない。ならば戦争だって非情にするだろう。ことが経済と結びついた場合、商品が行きわたり充満しているから不況になるのはわかりやすい。ならば世界から商品が消えればいい。手っ取り早いのは戦争である。戦争はそれが行われているところは悲惨だが、それに必要な商品を作るところや、権力者など一部の人は儲かる。

為政者にとって戦争は最後の切り札であろう。それを船戸さんは血と肉として教えてくれたように思う。いや彼にそんな教訓的な意思はないのだろうが、人間の心理の暗黒まで書き切ってくれたことでぼくに感じたのである。
これが小説の力であろう。知識ではなく血肉化した知恵を授けてくれた4000ページ超の大作であった。
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