天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

市を立て続ける

2024-04-24 07:41:18 | 俳句

句会を終えて帰る弘子さん


きのう月例のKBJ句会を行った。
ずっと休んでいた木村弘子さんが来た。句会開始は13:30だが正午に西国分寺駅に迎え昼食をともにした。前月は5句できたらしいが朝起きるとめまいがするといって休んだ。そういう事態が去年の夏ころから続いていた。
ひこばえネットに毎月10句出すのが困難になってそこから退場していたが対面句会には未練があったらしくしばしば参加する姿勢は見せた。けれどダメだった。
昭和11年生まれの87歳ゆえ体力、気力が萎えてゆくのは理解できる。非情な言い方をすれば、老衰である。
自分より14歳上の人生の先輩に活を入れるとか叱咤するなどできない。「頑張りましょう」もあさはかに思える。そのときどういう体が事情になっているか想像できない。
いろいろ忘れがちの弘子さんに句会の情報をたんねんに伝えるが小生のできるすべてであった。

弘子さんを全員があたたかく迎えた。句会の参加者は横一列であり上下はない。
小生は句会のときは人を見ず句のみ見る。元気がないから採って元気づけようとかいうことはいっさい考えない。よって
ひたぶるに深む葉の色春惜しむ 弘子
は採らなかった。木か草の名前があれば「春惜しむ」はもっと効く、上五中七を生かすならば季語はなにか物のほうがいい、「百千鳥」みたいな、と思って見送った。が、これに2点入り採った人はむろん好意的なことを言った。
たしかに「ひたぶるに深む葉の色」は作者らしい情感であり好感を持つ人がいて不思議ではない。句を出せば良きにつけ悪しきにつけ人が何か言ってくれる。
それが句会の楽しさおもしろさであろう。
桃の宿生まれしが桃太郎かな 弘子
これにも1点入り驚いた。採った人は「能天気で楽しい」と評価した。
石を投げれば水面に波が立つ。そのように句会はさまざまな言葉がシャワーのように飛び交う。
桃太郎などというばかばかしいことが楽しい。間髪を容れずに言葉が言葉を呼ぶ集まりに疲れながらも弘子さんは輝いているように見えた。

むかし村で俳句を指導していた父が囲炉裏端で句稿に赤字を入れながら、「俳句なんて屁のつっかいにもならんがな」言ったことを最近よく思い出す。
そうなのだ。下五が「けり」であろうと「なり」であろうと世界に何の影響も与えない。腹の足しにもならない。役に立たないことゆえに遊べるのである。
夜、弘子さんから「今日は生きているなあと実感した幸せな1日でした」というメールが来た。よかった。

弘子さんの長年の友人に中川郁さんがいる。91歳。弘子さんとの縁で6年前、田無の「ひこばえ句会」へ参加、それが「ひこばえネット」になってからもずっと一緒に俳句をやっている。
彼女は「海」で研鑽を積み老境に入ってから厳しい叱咤を受けたいといって小生のところへ来た。「鷹」は厳しいと世に鳴り響いているのだ。
今月の例会で
五千歩が限界と知る花吹雪 中川郁
を採った。老境を「卒寿」と書きたがる人で、その情念傾向を小生は嫌った。
けれど「五千歩が限界と知る」は実にリアルで作者の歩いているさまが見える。五千歩で行くことができるのはせいぜい3キロ半。季語も効いて必死の散策を寿いでいる。老いを感傷的に扱わなかったことで俳句が立った。
彼女はいつも「厳しい批評をしてください。どんなに厳しくてもいいです」と毅然としている。「センセイ」と小生を呼ぶのは世辞でないようだ。

「屁のつっかいにもならぬ」句会をよすがにしている人たちがいる。
歩くのに歩数計が励みになるように、生きるにも何かよすがが必要。俳句好きにとってそれは句会である。
句会をひらくのは、市を立てるようなもの。市を立てれば人が立ち寄るよすがとなる。市を立て続けようと思う。
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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown ()
2024-04-24 10:30:03
野の花摘みがお好きな弘子さん、
ご無沙汰しております。
お会いした事はございませんが以前こちらをお借りして、一度だけコメントを交わさせて頂きました。

「桃の宿~」に1点です。こんなに楽しい突き抜けた発想にたどり着けるアタマの柔軟性に参りました。わたる先生の句会は、元気の源。出席が叶い何よりです。

昨今は四季の境目がぐしゃぐしゃで誰もが体調を崩しやすいですね。
ですので、決してご無理をなさらずに、わたる先生の叱咤激励の句会を今後も弘子さんが一度でも多く楽しまれる事が出来ますよう願っております、そして貴女の投句をのんびりと楽しみにしております。
暑さに向かいます故に、お身体の方、お厭いくださいませ。
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Unknown (TOTO)
2024-04-24 11:19:59
「市を立て続ける」っていいなぁ
返信する
Unknown ()
2024-04-25 19:53:47
わたる様
遅ればせながらですが、時にこちらの場所をお借りしてブログの向こう側の方に一方的なメッセージを送ってしまいます事、申し訳ございません。
遅ればせながら謝罪申し上げます。
自分の気持ちを優先させてしまう私も悪い癖、猛省しております。
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エールは歓迎 (わたる)
2024-04-26 05:28:22
瞳さん、人を励ます言辞は歓迎します。記事に関係することなら書いてください。記事の間違いについても指摘してくださるとありがたいです。
返信する
Unknown ()
2024-04-26 13:04:17
わたる様
恐れ入ります。
ありがたいお言葉です。

結クンのいつも何かしら逡巡するようなハの字眉のファンです。つい見守りたくなります。弟クンは放っておいても大丈夫。(な気がします?!)
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