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天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

小川軽舟の一物仕立てを検証する

2017-09-19 05:49:23 | 俳句

小川軽舟鷹主宰


鷹俳句会の年度は10月号をもってはじまり9月号をもって終る。この1年の鷹主宰、小川軽舟の諸作のなかで特に一物仕立ての句を検証する。

鷹俳句会はそれを興した藤田湘子が「二物衝撃」を謳ったためその手法の句が圧倒的に多くその精度のよさを誇れるのであるが、湘子にしても現主宰小川にしても自身はかなりの率で二物衝撃、すなわち取合せでない句をものしている。
小川は鷹同人に二物衝撃がそうとうこなせる者は一物俳句、一物仕立ての句に挑戦するように鼓舞する。
ものの言いよう、言い方で出す詩情、味わい、言葉の芸というものが俳句にはあり、それも当然重要である。

ここでは鷹主宰の一物仕立ての句をみていくがこの分類はけっこうむつかしく全部を拾っていないことをお断りする。
敢えてベスト3に赤い色をつけて評価する。


鷹10月号
のぼり来し坂かへりみて空涼し
睡蓮に日の差すやうに忘れけり
蜉蝣のはたたほたたと落ちきたる


鷹12月号
裏町に鬱金の月の低くあり
蔦と髪いづれに雁字搦めなる
子にもらふならば芋煮てくるる嫁
駅立てば席に日の差す刈田かな


鷹1月号
白菜に水道の水輝ける
マッチの火かばふ女の手の寒し
寒さうに日当る顔と別れけり
坂のぼるマフラーの顔みな未来

マフラーをしているのは女生徒と思われる。どの子も快活な笑顔である。上五で坂を設定し下五を「みな未来」で決めたのは秀逸。こういうマフラーの句はいままでなかったのではないか。この斬新さには驚いた。今年もっとも感心した句のひとつ。
この句はマフラーを主眼とした一物仕立てであるが、生粋の一物俳句というとやや疑問がある。
たとえば奥坂まやの<野に山に枯みなぎりて醇乎たり>、<うすらひの端は水とも光とも>、<やどかりの脚あふれ出て動きけり>などと比べると一物の精度は奥坂が上。
誤解してほしくないのは一物の精度と句の優劣は別の領域にあるということ。奥坂に比べて小川の一物には情が入り込んでいる。
「みな未来」なる措辞は小川の対象への期待というか情なのである。これが一句に恰幅を与え幸福観をもたらすが、奥坂の感覚至上主義はこの情を遮断して物そのものを立たせる方向へ疾走する。
小川の一物は奥坂ほど感覚的でなく知的であり情を介在させる。それが一物仕立てという言い方になるだろうか。
奥坂の一物に関しては別の機会に検証する予定。


鷹2月号
毛糸帽頭選ばず交差点
この句も主宰のうまさを余すことなく見せてくれた一句である。毛糸帽は伸び縮みするからどんな大きい頭でもかぶることができる。だから「毛糸帽頭選ばず」なのだがこの洒脱な言い方を凡百は思いつかない。この措辞にまず驚くのだが下五の「交差点」が圧巻。
これがあることでたとえば毛糸帽をかぶる一人は自分であり交差点へ近づいて信号待ちをしているという場面が見える。すると向こうからやはり毛糸帽をかぶった人が来るというふうに絵が広がる。その人も頭に毛糸帽が合っている。
人間はみな平等、偉い人もそうでない人もいない。みんな毛糸帽が似合う同士なのだ、といった感慨へ導いていく。そういう人間平等みたいな味わいがすばらしい。
坂のぼるマフラーとどっちが上かと問われるほんとうに困る。甲乙つけがたいほどどちらもあか抜けている。


鷹3月号
たつぷりと見し初夢の覚めてなし
冬滝に巨きな瞼あるごとし

星空は戴冠式のごとく凍つ
中七の比喩が冴える。頭に乗せられる冠は宝石などちりばめられていることもあり星のイメージが立つ。戴冠式で豪華絢爛さのイメージが星空に広がる。勇壮な出来。

庭の梅畑の梅を侮れる
枝垂梅東下三日の間に盛り


鷹4月号
フリージア逸らしし視線もの思ふ
春風に妻まで思ひ出し笑ひ
子の風船母の高さに首振るよ
春昼の照り翳りしてしづごころ


鷹5月号
受験子の素直な涙忘れまじ

鷹6月号
石蓴掻く波静かにて潮迅し
これもそうとう感心した句。地味なところを見極めて言葉にするのが主宰の眼力。「波静か」だが「潮迅し」、一見相反するところの事情を仔細に書き分けて味を出すところは至芸。


かたまりより仔猫の形摑み出す
大鮑肝の琅玕つややかに
炙らるる鮑の怒り行き場なし


鷹7月号
麦秋の空は冷たく晴れわたり
茶摘待つ夜明の空に塵もなし
古靴に慕ひ寄るなり蟾蜍


鷹8月号
バベルの搭簾かけたる窓もなし
初茄子尻を絡げて浮かびけり
夏料理運ぶ板の間畳の間

「板の間畳の間」という並列の二物の冴え、それでもって夏料理のうまさを際立出せた一句。

鷹9月号
刺繍あり授乳に添ふるハンカチに
花氷葦簀を敷きて傾ぎける
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