
大相撲秋場所、みんな勝ったり負けたりのどんぐりの背比べ状態。いったい誰が優勝するのか。それはともかく四股名はいつも考えさせられる。
まず気に入らない四股名の筆頭は、「湘南の海」。<しょうなんのうみ>の7音は間延びし、呼びにくいことこのうえない。「美ノ海」<ちゅらのうみ>みたいに5音で綺麗にまとめられないのか。「美ノ海」はいかにも沖縄を感じさせてよい。
次におもしろくないのが「阿武咲」<おうのしょう>。これを聞いて書ける人が何人いるか。こじつけが度を越えている。ルビを振って読ませればいいという態度は文化を壊す。「天空海」<あくあ>も強引。
名は体を表わす。「髙安」<たかやす>である。「安」など使うからここ一番の勝負に負ける。何度も優勝レースをしながらその重圧に負けて常に脱落する。「高遠」<たかとお>に改名したらどうか。これは長野県の桜の名所だが、地名を四股名に転用してもいいだろう。
地名の転用はもっと考えてよく、「磐梯山」<ばんだいさん>「玄海灘」<げんかいなだ>など響きがいい。「播磨灘」<はりまなだ>は漫画のヒーローである。勝ち名乗りを聞いて気持ちよくなることをもっと大事にすべきだろう。
地名のほかにエメラルドを意味する「翠玉」<すいぎょく>を誰かに名乗ってほしいし、冬を意味する季語「玄帝」<げんてい>だって風格があるだろう。ほかのジャンルの名前の転用を考えてもいいのである。
名は体を表わすもう一人が「翔猿」<とびざる>。はじめ変な四股名だなあと思ったが彼の取組を見ているとぴったり合っている。ブラボー!
「朝乃山」<あさのやま>は優し過ぎないか。山なら「豪ノ山」<ごうのやま>のほうが強そう。「武将山」<ぶしょうやま>もイメージが立つからよい。「白鷹山」<はくようざん>もスケールが大きい。
山だか海だかわからないのが「御嶽海」<みたけうみ>。木曽の出身だから「御嶽」はいいが「海」が欲張りすぎ。長野県に海はないしイメージが混乱する。
「天馬山」<てんまやま>という四股名があってもいい。「山」はもっとあってよく、「餡子山」<あんこやま>はユーモラスではないか。ぼた餅のような体型のあんこ型の力士に捧げたい。ユーモアといえば「熱海富士」<あたみふじ>はそこはかとなく楽しい雰囲気。力士の風貌と名が合っていて好ましい。
「錦木」<にしきぎ>の響きは慎ましい。それはNISHIKIGIとI音が四つ並ぶ稀有な四股名であるせい。A音О音で晴れやか、伸びやかになるが、I音は収縮する陰の音である。しかし「錦木」は落ち着きがあって、地味でこの力士に合っている。しかし、呼出しにとって発生しにくい音感だろう。やはりA音がどこかに欲しくなる。
呼出しが発声しやすい最右翼は、さきほど優し過ぎると言った「朝乃山」だ。A音の多さとО音の配置が抜群の5音。これに匹敵するのは昔の力士だが、「高見山」<たかみやま>、「隆の里」<たかのさと>、若乃花<わかのはな>であろう。現在呼出しが歌えるような四股名が乏しい。「阿炎」は2音ゆえ呼出しが「あーーーびーー」と苦労する。歌えないのだ。2音はラジオ実況のアナウンサーにはいいが呼出しには嫌われる。悩ましい問題である。
さて、十両に「狼雅」<ろうが>というロシア出身の力士がいるが違和感あり。日本で絶滅した狼がロシアにいそうなのはわかるがこれに「雅」をつけるのは凝りすぎ。あまり情念を込めるのはいかがなものか。宮城野親方(元白鵬)が期待を込めてつけた「伯桜鵬」<はくおうほう>は残念ながら肩の手術で休場。それはともかく読みにくい。色々な要素を詰め込み過ぎていて音感が冴えない。四股名はあまり思いを込めず簡素のほうがいいい。
「盤龍」<ばんりゅう>、「雲龍」<うんりゅう>といった落ち着いた四股名があってもいい。力士は大酒飲みがいそうだから、「斗酒王」<としゅおう>がいてもいい。なにごとにもユーモアが必要。
山や海があるなら城があってもいい。黒羽城<くろばじょう>、疾風城<はやてじょう>、「白帝城」<はくていじょう>など。
最後にいいかげんに「正代」<しょうだい>「遠藤」<えんどう>、は辞めてほしい。前者はまだ力士の匂いがするが後者はそのへんにいるおじさんである。彼らは本来の四股名をつけるきっかけを失ってしまったか。
いろいろ書いてきたが優勝すればその四股名は輝く。すこしくらいへんてこな四股名でも勝てば官軍で輝く。誰か抜きん出て四股名を轟かせ! オレハマッテルゼ、これは競走馬の名前であったか。