先日、ヘーゲル国防長官が東アジアを歴訪し、日本及び中国にも立ち寄って、様々な発言をしている。これに反応する形で中国も反論し、実は凄いことになっている。まずは、この辺の事情を扱った記事を幾つか紹介してみよう。
【産経新聞記事】
2014.4.8「米国防長官、尖閣防衛義務を表明 中国は領有権『妥協せず』と反発」
2014.4.8「中国外務省、米国防長官の発言に反発 『中国は主権や領土を侵害しない』」
2014.4.8「尖閣めぐり米中国防相が火花 米『日本守る』、中国は「武力を使う用意ある』と威嚇」
2014.4.9「中国、弱腰見透かし強硬…米国『くさび』と配慮と 米中国防相会談」
2014.4.9「中国・習主席が米国防長官と会談 軍同士の信頼醸成確認か」
最初の記事では、ヘーゲル国防長官が中国の常万全国防相と会談した際に、尖閣諸島に対し「日米安全保障条約に基づく日本防衛義務を果たす」との考えを表明し、これに常氏は激怒し「領有権問題では妥協しない」と主張した。その際の表現が過激であり、「領土を守る必要があれば、中国は軍事力を行使する用意がある」と述べたという。次の記事は中国外務省が追随する形で同様の内容を繰り返し、「中国の主権と領土保全を侵すいかなる国も決して許さない」としている。3つ目の記事はもう少し丁寧にここまでの経緯を説明しており、一連の会談の中で「事前の協議もなしに、係争となっている島の上空に、一方的に防空識別圏を設定する権利は、中国にはない」として、一時は中国に配慮した形の防空識別圏の話題を再燃させ、尖閣防衛の意志の固さをアピールした模様である。4つ目の記事は中国の思いを少し解説する形で補足をしており、誰もが感じることであるが、オバマ大統領の「アメリカは世界の警察ではない」発言からシリア、ウクライナ問題での連戦連敗の状況を顧みて、弱腰のアメリカの事情を見透かして中国は強硬な態度を見せながらも、空母「遼寧」の視察を受け入れたり、最後の記事にもあるように習近平国家主席との会談を通して北朝鮮問題での連携の意志を表したり、「アメリカさんには悪意はありませんよ、悪いのは日本何ですよ!」と気遣いを見せている感じを紹介している。
しかし、4つ目、5つ目の記事の様にオブラートに包めばアメリカも安心するかと言えばそんなはずはなく、中国の常万全国防相との過激なやり取りが直面する現実であり、門田将隆氏は自らのブログでこの状態を称して「『空想的平和主義』の時代は終わった」としている。
門田将隆ブログ「夏炉冬扇の記」2014年4月9日「名実ともに『空想的平和主義』の時代は終わった」
ここでは、ヒラリー・クリントン前国務長官が退任前に、日米安保条約に基づく対日防衛義務の対象に尖閣諸島が含まれることを再確認した上で、日本の施政権を損なおうとする行為に反対を表明し、これがこの1年の中国牽制に役立ってきたことを認める一方、「ワシントンで活発化する中国ロビーの動きと、大量保有する米国債の“人質作戦”が中国に功を奏し、尖閣が将来、日米安保条約第5条の『適用対象外』とされる可能性もまた否定できない」としている。その様な中での今回のヘーゲル国防長官の発言だから意義があるのである。
ただ、事態はそう楽観できるのではなく、やはり空想的平和主義の時代の終わりは認めなければならない。例えばこんな記事がある。
JPpress2014年4月10日「一笑に付すことはできない羅援少将の怪気炎『対日戦争に向けて万全に準備』と日米を恫喝」
別にこの少将だけに限った話ではなく、最近では中国の現役の軍関係者の中から同様の勇ましい話が良く聞かれ、「羅援“少将”の今回の強硬発言は、ヘーゲル国防長官による日本訪問ならびに中国訪問を睨んでの恫喝発言といった意味合いもある。同時に、羅援をはじめ人民解放軍強硬派による『近い将来に日中軍事衝突が起きた場合には人民解放軍が優勢である』といった論調に反対あるいは疑義を差し挟む勢力に対して、反論を加えておこうといった狙いもあったようだ。」と記事の中で解説があるように、反論に反論というご丁寧なことをして緊張を煽っている。どうもヘーゲル国防長官の東アジア歴訪を睨んでの牽制との解釈もある。この少将の発言で興味深いのは、その他の発言は「単に勇ましいだけ」のイケイケ・ドンドン的な発言が多いのだが、実際の軍事行動での得失点を解析いる部分が特徴的である。ただ、常識的に尖閣諸島周辺が戦場となる場合には空軍同士の戦闘ではなく、実際には海上戦能力が支配的であり、例えば自衛隊の潜水艦などによる中国艦船への「接近拒否行動」が勝敗を分けるところであり、航空戦力の比較で本気で勝敗がつくと思っているのではなく、「尖閣紛争を引き金として、日中間軍事衝突が勃発する可能性はますます高まっており、人民解放軍は対日戦争への準備を万全に整えて一時といえども警戒態勢を緩めていないという対日・対米恫喝」が主なる目的と捉え、実際、この記事の中で少将は「日本と中国とのいかなる軍事衝突にもアメリカが介入することはない」と断言しているらしい。この、中国的な希望的観測がどれほどの真実味があるのかは疑問だが、しかし、重要なのはそれが「笑い話」ではなくなっているという一抹の不安である。評論家的な人達が、面白おかしく記事を書く中で都合の良い解釈をするのは分かるのだが、どうも多くの人達が「その一抹の不安を重視し始めた」のは事実の様である。その辺りのことは、日本よりもアメリカの方が敏感であるらしい。下記の記事にその辺の事情を細かく解説している。この記事は私にとって非常に目から鱗であった。
中東・イスラーム学の風姿花伝2014年4月6日「【海外の新聞を読んでみる】ヘーゲル国防長官訪日を世界はこう見る」
この記事は、東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏が、アメリカの新聞と日本の新聞を読み比べて解説をしている記事なのだが、ヘーゲル国防長官の一連の行動・発言に日本のメディアが非常にヌルい反応を見せる中、アメリカの有力紙は非常に神経質に雲行きを見守っている様が紹介されている。ここではワシントンポストとニューヨークタイムズの記事が紹介されているが、ウクライナ問題のアメリカの煮え切らない態度を見て、本当に尖閣有事の際には「アメリカは日本と共に戦ってくれるのか?」ということに懸念を本気で持ち出したと言っている。ニューヨークタイムズではよりストレートで、記事のタイトルからして「U.S. Response to Crimea Worries Japan’s Leaders」と「アメリカのクリミアへの対応が日本のリーダー(安倍総理)を不安にさせている」と懸念より一歩上の不安を感じているとまで言っている。というのも、日本の政府関係者などがしきりに「クリミアと同様のことが東アジアで起きたときに、アメリカは同じ態度を取るんじゃないの?」とアメリカ側に聞いているらしく、既に懸念の域を超えていると解釈しているようだ。その意味で、尖閣が日米安保の適用範囲内であることの再宣言を(記者の解釈では)日本はアメリカに求めていたようで、アメリカ政府筋は「ウクライナと日本では全然違う」「クリミアと尖閣は一緒じゃない」と必死で説明しているらしい。
この様な視点で見ると、今回のヘーゲル国防長官による中国に対する牽制発言は分かり易く、極めてシナリオ通りの展開と言える。そして、このニューヨークタイムスの記事の中でも、キヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦氏の発言が引用されていて、彼は「日本が攻撃されて、アメリカが対応することを拒んだら、その時はアメリカが日本から基地を引き上げる時ですよ。日本の基地がなければ、アメリカはもはや太平洋の大国ではなくなりますよ。ご存知ですよね」とやんわりと、さりげなくアメリカを恫喝しているのである。個人的には非常に良い仕事をしている感じが漂っている。勿論、彼は安倍総理と近いから、総理と民間人という役どころを上手く分担しての行動であろう。池内恵氏の評価と同じく、「日本側の国際情報戦略も頑張っているな」という意見には同感である。
なお、この辺の流れはウクライナを見てアメリカ全体が疑問を感じ、以下の様な動きがアメリカ上院の超党派でなされたという。
産経新聞2014年4月8日「中国防空圏を『現状変更の試み』と非難 米上院、超党派で決議案」
そろそろアメリカは気が付き始めたのだろう。プロパガンダとロビー活動が徹底されている中国の勢力が、アメリカ国内の政権中枢やマスメディアの深部まで侵食している中で、「このままで良いのか?」という行動が実際に起きているというのは重要である。改めて、「日本側の国際情報戦略も頑張っているな」という感想である。
←人気ブログランキング応援クリックよろしくお願いいます
【産経新聞記事】
2014.4.8「米国防長官、尖閣防衛義務を表明 中国は領有権『妥協せず』と反発」
2014.4.8「中国外務省、米国防長官の発言に反発 『中国は主権や領土を侵害しない』」
2014.4.8「尖閣めぐり米中国防相が火花 米『日本守る』、中国は「武力を使う用意ある』と威嚇」
2014.4.9「中国、弱腰見透かし強硬…米国『くさび』と配慮と 米中国防相会談」
2014.4.9「中国・習主席が米国防長官と会談 軍同士の信頼醸成確認か」
最初の記事では、ヘーゲル国防長官が中国の常万全国防相と会談した際に、尖閣諸島に対し「日米安全保障条約に基づく日本防衛義務を果たす」との考えを表明し、これに常氏は激怒し「領有権問題では妥協しない」と主張した。その際の表現が過激であり、「領土を守る必要があれば、中国は軍事力を行使する用意がある」と述べたという。次の記事は中国外務省が追随する形で同様の内容を繰り返し、「中国の主権と領土保全を侵すいかなる国も決して許さない」としている。3つ目の記事はもう少し丁寧にここまでの経緯を説明しており、一連の会談の中で「事前の協議もなしに、係争となっている島の上空に、一方的に防空識別圏を設定する権利は、中国にはない」として、一時は中国に配慮した形の防空識別圏の話題を再燃させ、尖閣防衛の意志の固さをアピールした模様である。4つ目の記事は中国の思いを少し解説する形で補足をしており、誰もが感じることであるが、オバマ大統領の「アメリカは世界の警察ではない」発言からシリア、ウクライナ問題での連戦連敗の状況を顧みて、弱腰のアメリカの事情を見透かして中国は強硬な態度を見せながらも、空母「遼寧」の視察を受け入れたり、最後の記事にもあるように習近平国家主席との会談を通して北朝鮮問題での連携の意志を表したり、「アメリカさんには悪意はありませんよ、悪いのは日本何ですよ!」と気遣いを見せている感じを紹介している。
しかし、4つ目、5つ目の記事の様にオブラートに包めばアメリカも安心するかと言えばそんなはずはなく、中国の常万全国防相との過激なやり取りが直面する現実であり、門田将隆氏は自らのブログでこの状態を称して「『空想的平和主義』の時代は終わった」としている。
門田将隆ブログ「夏炉冬扇の記」2014年4月9日「名実ともに『空想的平和主義』の時代は終わった」
ここでは、ヒラリー・クリントン前国務長官が退任前に、日米安保条約に基づく対日防衛義務の対象に尖閣諸島が含まれることを再確認した上で、日本の施政権を損なおうとする行為に反対を表明し、これがこの1年の中国牽制に役立ってきたことを認める一方、「ワシントンで活発化する中国ロビーの動きと、大量保有する米国債の“人質作戦”が中国に功を奏し、尖閣が将来、日米安保条約第5条の『適用対象外』とされる可能性もまた否定できない」としている。その様な中での今回のヘーゲル国防長官の発言だから意義があるのである。
ただ、事態はそう楽観できるのではなく、やはり空想的平和主義の時代の終わりは認めなければならない。例えばこんな記事がある。
JPpress2014年4月10日「一笑に付すことはできない羅援少将の怪気炎『対日戦争に向けて万全に準備』と日米を恫喝」
別にこの少将だけに限った話ではなく、最近では中国の現役の軍関係者の中から同様の勇ましい話が良く聞かれ、「羅援“少将”の今回の強硬発言は、ヘーゲル国防長官による日本訪問ならびに中国訪問を睨んでの恫喝発言といった意味合いもある。同時に、羅援をはじめ人民解放軍強硬派による『近い将来に日中軍事衝突が起きた場合には人民解放軍が優勢である』といった論調に反対あるいは疑義を差し挟む勢力に対して、反論を加えておこうといった狙いもあったようだ。」と記事の中で解説があるように、反論に反論というご丁寧なことをして緊張を煽っている。どうもヘーゲル国防長官の東アジア歴訪を睨んでの牽制との解釈もある。この少将の発言で興味深いのは、その他の発言は「単に勇ましいだけ」のイケイケ・ドンドン的な発言が多いのだが、実際の軍事行動での得失点を解析いる部分が特徴的である。ただ、常識的に尖閣諸島周辺が戦場となる場合には空軍同士の戦闘ではなく、実際には海上戦能力が支配的であり、例えば自衛隊の潜水艦などによる中国艦船への「接近拒否行動」が勝敗を分けるところであり、航空戦力の比較で本気で勝敗がつくと思っているのではなく、「尖閣紛争を引き金として、日中間軍事衝突が勃発する可能性はますます高まっており、人民解放軍は対日戦争への準備を万全に整えて一時といえども警戒態勢を緩めていないという対日・対米恫喝」が主なる目的と捉え、実際、この記事の中で少将は「日本と中国とのいかなる軍事衝突にもアメリカが介入することはない」と断言しているらしい。この、中国的な希望的観測がどれほどの真実味があるのかは疑問だが、しかし、重要なのはそれが「笑い話」ではなくなっているという一抹の不安である。評論家的な人達が、面白おかしく記事を書く中で都合の良い解釈をするのは分かるのだが、どうも多くの人達が「その一抹の不安を重視し始めた」のは事実の様である。その辺りのことは、日本よりもアメリカの方が敏感であるらしい。下記の記事にその辺の事情を細かく解説している。この記事は私にとって非常に目から鱗であった。
中東・イスラーム学の風姿花伝2014年4月6日「【海外の新聞を読んでみる】ヘーゲル国防長官訪日を世界はこう見る」
この記事は、東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏が、アメリカの新聞と日本の新聞を読み比べて解説をしている記事なのだが、ヘーゲル国防長官の一連の行動・発言に日本のメディアが非常にヌルい反応を見せる中、アメリカの有力紙は非常に神経質に雲行きを見守っている様が紹介されている。ここではワシントンポストとニューヨークタイムズの記事が紹介されているが、ウクライナ問題のアメリカの煮え切らない態度を見て、本当に尖閣有事の際には「アメリカは日本と共に戦ってくれるのか?」ということに懸念を本気で持ち出したと言っている。ニューヨークタイムズではよりストレートで、記事のタイトルからして「U.S. Response to Crimea Worries Japan’s Leaders」と「アメリカのクリミアへの対応が日本のリーダー(安倍総理)を不安にさせている」と懸念より一歩上の不安を感じているとまで言っている。というのも、日本の政府関係者などがしきりに「クリミアと同様のことが東アジアで起きたときに、アメリカは同じ態度を取るんじゃないの?」とアメリカ側に聞いているらしく、既に懸念の域を超えていると解釈しているようだ。その意味で、尖閣が日米安保の適用範囲内であることの再宣言を(記者の解釈では)日本はアメリカに求めていたようで、アメリカ政府筋は「ウクライナと日本では全然違う」「クリミアと尖閣は一緒じゃない」と必死で説明しているらしい。
この様な視点で見ると、今回のヘーゲル国防長官による中国に対する牽制発言は分かり易く、極めてシナリオ通りの展開と言える。そして、このニューヨークタイムスの記事の中でも、キヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦氏の発言が引用されていて、彼は「日本が攻撃されて、アメリカが対応することを拒んだら、その時はアメリカが日本から基地を引き上げる時ですよ。日本の基地がなければ、アメリカはもはや太平洋の大国ではなくなりますよ。ご存知ですよね」とやんわりと、さりげなくアメリカを恫喝しているのである。個人的には非常に良い仕事をしている感じが漂っている。勿論、彼は安倍総理と近いから、総理と民間人という役どころを上手く分担しての行動であろう。池内恵氏の評価と同じく、「日本側の国際情報戦略も頑張っているな」という意見には同感である。
なお、この辺の流れはウクライナを見てアメリカ全体が疑問を感じ、以下の様な動きがアメリカ上院の超党派でなされたという。
産経新聞2014年4月8日「中国防空圏を『現状変更の試み』と非難 米上院、超党派で決議案」
そろそろアメリカは気が付き始めたのだろう。プロパガンダとロビー活動が徹底されている中国の勢力が、アメリカ国内の政権中枢やマスメディアの深部まで侵食している中で、「このままで良いのか?」という行動が実際に起きているというのは重要である。改めて、「日本側の国際情報戦略も頑張っているな」という感想である。
←人気ブログランキング応援クリックよろしくお願いいます