ちびっこ島木彫館のオープンまで(1/2)
No.183、高知ファンクラブ、8(2017)
大根の鎖切りの様に、木材の丸太から連続した鎖を切り出す匠の技の作品を始めて見たのは、高知県総合森林センター付設の「森の情報交流館」であり、玄関外の右側を飾っている。杉丸太から削り出しただけなので、すでに暗く色褪せており、目立たなくなっている。小型のチェンソーを巧みに操っている山本裕市さんとの出会いは、森の情報交流館での山の日のイベントのときである。妻の一枝が始めて山本さんにお会いしたのは、布師田の高知県地場産センターで開催された「第4回高知もくもくランド2009」(3/14~15)の時である。
「始めて山本ご夫妻にお会いしてから」 (記;鈴木一枝)
展示してある「閉じた傘」が欲しくて、そのコーナーの担当者を探していたら、奥様が現れて、山本さんを呼んで来てくれた。さっそくチェンソーでの丸太の鎖の製作作業を披露して下さった。ホーッと感心・感激したのである。そして、お名前と浦戸の住所をお聞きした。
後日、浦戸のお宅に押しかけて、居間に飾ってある作品、納屋の棚に置いてある作品、工房にある制作中の作品などを見せて頂き、木彫り像を預かって帰るようになった。素朴な、ユーモアのある作風に惹かれ、私が御免で喫茶店を開業していた頃は、値札を付けて展示させて頂いたのである。珍しさもあり、注文が殺到した。時には、失敗作だから安くすると言われて買い取ったもの、気に入らないからとタダで貰ったもの、注文で作成したがイメージが出ていないと返品されたものもある。我が家のウッドデッキに置いている大きなテーブルがその一例である。楕円形状の厚い天板ガラスの原価だけで譲って貰ったものである。
居間・寝室のインテリアは。亀、オコゼ、フクロウの室内ランプは夜の寝室や客間を明るくしてくれる。菓子折り袋の文房具・鉛筆立てはパソコン机の上にあり、切り株の中で切り離した球状ボールが動くようにした丸太の椅子がある。
庭を飾るエクステリアは。既に、「歴史民俗博物館のような我が家」でも述べたように(註)、唐箕やこまざらえ・除草機を置いてある。加えて、門番のように立つコロポックル2体と1匹の猿、段々の北斜面には角が見事な牡鹿が4頭、車庫を守るように座っているカッパが4体、大きく口を開けた鯨1匹、枝にぶら下がる小鳥のエサ台が1つ、そして鉢を置く為の大きな木製の靴が2足と、それのモデルとした陶磁器製の靴1足が花壇を飾っている。余談になるが、この木製靴は好評で50足を超える注文があったと聞いている。
中にはどうにも飾りたくない木彫もある。例えば、大きなカツオが出て来る水道蛇口、猫が食べ残した魚の骨、よれよれになったハンガーの背広、股覗きのお坊さんなどである。
ご夫妻の人柄は、その作品の木彫りさながらに素朴で、気さくで、漁師が本業と言いながら御畳瀬のチリメンジャコをパック一杯に持たせて下さることも多かった。賀状のやり取りもしていたが、しばらくお会いしていなくても、何時も会っている感じで、何の遠慮も要らない間柄になっていたと言っても過言ではない。
回覧板を持って来た近所の奥様が、玄関先に座っているコロポックルの笑顔を見て、「可愛らしいね。家にも欲しいわ。どこで手に入れたの」とのこと、そして電話で注文を取り次ぐと、元の図面も写真も見付からないので作品を見せて欲しいとのことで、我が家のコロポックルを車に乗せて、山本氏宅に向かっていた。その途上で、そのコロポックルを見た知人も「私にも。是非とも欲しいわ」と次々と注文が集まってきたのである。母も乗せて山本さんを訪れると、「横矢さんと云う人が、こじゃんと、いっぱい木彫を集めちゅうき、いっぺん見に行って来いや。なんやったら、わしが連れて行っちゃらえ」とのことである。須崎の浦の内へ連れて行ってもらう相談がまとまった。行く先は、この時はまだ呼び名は検討中とのことだったが、整備中の「ちびっこ島木彫館」だったのである。
註)情報プラットフォーム、No.262,7(2007)
鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」高知ファンクラブに掲載 2017年~
鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」 目次のつづき(2016年~現在に至る)
鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」 目次のつづき(2012年~2015年)
鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」 目次のつづき(2008年~2011年)
鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」 目次(2002~2007年 )