良音のするシャフトを使うと、
玉を撞いていて心地よい。
音にも個体差があり、それぞれ
の持ち味がある。
音の質がすべて異なるのは楽器
と全く同じ。
ビリヤードキューのタップは
接着剤によりキュー先に接着
されている。
その接着剤の塗布方法なのだ
が、よくアメリカ人や日本人
でも、タップを押圧させた時
に接着剤がはみ出るからと
先角(もしくはタップ)の中央
部にのみ接着剤を着ける人が
いる。
この方法は実利的に非常によく
ない。
なぜならば、タップ押圧時に
すべて綺麗に先角全面に接着
剤が伸びますか?という問題
があるから。
ほんの僅かでも接着剤が無い
部分が円周部位に発生したら
確実にタップ浮きや飛びの
トラブルの原因となる。
接着剤は全面に塗られていない
と密着性は確保できない。
シアノアクリレートの瞬間接着
剤は空気中の水分と反応して
接着硬化する。
タップなどの場合は、革の中
の残存水分と反応して強固な
接着を得る。
瞬間接着剤は点付けで接着させ
るのがセオリーとなっている。
これは水分を含む空気を必要と
するために隙間を作って接着
を促進させる為だ。
だが、ことビリヤードキューの
タップに関しては、隙間がある
のは微塵たりとも不適合になる。
タップには水分が含まれている
ので全面塗布で問題ないし、
むしろそうでないと全面全域
の完全密着接着は得られない。
瞬間接着剤だろうと、接着物
を密着載せしてからは押圧を
する。暫くの間。
タップの場合には指で力強く
押圧すると、プチッという空気
が抜ける音がする。必ずする。
接着剤を全面塗布でも鳴る。
この小さな音がしたら空気が
抜けた知らせなので完全密着
状態である事を示す。
この音が出ない時にはなんらか
の問題がある。全面塗布されて
おらず、接着剤の無い部分に
空気が逃げて音が鳴らない可
能性も考えられる。
押圧すると接着剤がタップと
先角の間にはみ出す。
それは即清拭する。固まる前に。
先角を接着剤はみ出しから守る
ために養生テープを巻くことは
私が国内で始めた。
私がそれを広める前は、先角
を養生するタップ交換などは
どこでも誰もやっていなかった。
ただ、接着剤のはみ出し処理の
為だけに養生テープは巻く。
刃物のガードなどにはなりは
しない。
ただし、タップ押圧時に接着剤
をぬぐい取れば養生テープも
従来のように要らない。
拭い取る最中に固まってしまった
接着剤は、刃物で綺麗に切り剥が
す。職人技で、シャフトや先角
本体を疵付けずに接着剤のみを
切り剥がして行く。
これは片刃では食い込むから駄目
で、両刃の切れ味の鋭いオルファ
黒刃等を使って外科手術のように
切り剥がして行く。細かいところ
まで目が見えないと作業ができな
い。
老眼になるとタップ交換ができなく
なるのは、そうした細かい作業が
不能になるからだ。
タップ交換では接着剤は先角の
全面にまんべんなく塗布するの
が正解だ。
なお、先角径よりもタップ径の
ほうが大きいので、先角に接着
剤を塗布したほうが綺麗に仕上
げる事ができる。これは物理的
に。
そして、タップ交換後には、タッ
プの側面を刃物で綺麗に桂剥き
のようにカットして、トップも
ヤスリ等で成型するのも当然だ
が、先角もきちんと磨いて光ら
せてあげる事が大切だ。
道具の状態確認の時に亀裂や不
具合発生を正確に発見する為に
も、先角は常にピカピカの状態
にしておく。
先角が擦過痕とチョーク汚れで
ボロボロのままで放置、という
のは本物の上級プレーヤーには
いない。
スパイクが汚れまみれ、グラブ
も泥だらけのままの野球選手が
いないように、撞球でもまとも
なプレーヤーは先角をきちんと
ポリッシュして常に光らせている。
『スタートレック/ヴォイジャー』
人気SFドラマ「スタートレック・
シリーズ」のシーズン7(2000~)。
エピソード5「星雲生命体を救え」。
宇宙歴4854 6.2。
隊員の一人はレクリエーション
でバーチャルフォノグラム空間
を船内に作った。
それは20世紀のアメリカの酒場
を模したものだった。
そこではフランス人の好色なホス
テスとジゴロがいる。酒もある。
ホノグラムなので仮想空間だが。
だが、現実化して実際に肌で感
じることのできる実体空間とし
て再現できる。
そして、そのサルーンにはプール
テーブルがあり、地球歴1950年代
に名人ウィリー・モスコー二と
対戦した名うてのハスラーもいる。
そこで、隊員は副館長を呼び込み、
プールゲームに興じるのだが、
副館長は凄腕で、隊員は負け続け
た。
女性艦長も別な隊員に誘われて
酒場に入ってくる。
艦長「これは・・・ビリヤードね」
隊員「いえ。これはプールです」
艦長「あぁ~。ポケットがあるのは
プールね」
そこで艦長もやってみることになる。
ところが・・・。
艦長はとんでもない超凄腕だった(笑)。
隊員たちは全員が舌を巻く。
このルームを作った隊員は全く
刃が立たない。
艦長「次は8番をサイドに」
なんと、艦長はエイトボールで
ブレイクから自分のソリッド
ボールグループを全部落として
マスワリ寸前。
しかも、最後は伝説の「ガン見
ショット」でエイトを決めて
完全マスワリ(笑)。
艦長がやったガン見ショットとは、
ゲームボールを対戦者の顔を見
ながら玉を見ずにショットして
シュートインさせるハスラー・
ショットのことだ。
これは古くからあったが、映画
『ハスラー2』(1986)でトム・
クルーズがやって有名になった。
おちょくりドヤ顔ショットなの
で、とても失礼なプレーなのだ
が、ごくごく親しい仲間内など
ではマスワリのラストボールを
落とす時にやったりする。
一般的にはド無礼プレーなので
絶対にやらない。
ポケット・ビリヤードは、一度
構えたら目隠ししてでも的玉は
シュートインさせることができ
る。
「ガン見ショット」はゲームの
途中ではなく、最後のラスト玉
の時にやる。
もし外したりしたら「くぉら。
倍払え」などと賭け玉では言わ
れたりする。
ガン見ショットの時は、必ず
ニタァと笑いながらショット
するのがお約束。
「スタートレック」はシリアスな
SFドラマだが、好色なフランス人
男女が出てきたり、遥か過去の
地球への望郷の念で作った酒場
にプールテーブルがあったりと、
少しユーモアを見せたラストシー
ンのある回だった。
木製のプールキューは、殆どが
北米産のメープルが材料として
使われる。ボウリングレーンや
ボウリングピンに使われる粘り
ある木材だ。メープルシロップ
が採れるサトウカエデという種。
メープルは木の種類ではなく、
出来た杢目の文様により呼称が
分けられている。
鳥眼模様のバーズアイ、虎目の
カーリー、絹の布を重ねたよう
なキルテッド等々。
他にもいくつかの呼び方がある
が、材木の種類が異なるのでは
なく、模様により呼び分けてい
る。
プールキューでは、メープルの
特に硬い質性の部分をハード
メープル、ハードロックメー
プルと呼んで、主としてキュー
のシャフト部分に使用する。
文様が視覚的に美しい部分は
バット材として使用される事
が多い。
木製キューの一番のネックは、
どんなに見た目が美しいメー
プルであろうとも、どんなに
適切な長期間乾燥を経た材で
あろうとも、「完全にキュー
として完成させてみないと性能
特性は判らない」という特質
がある事だ。
これは現実的な事実として存在
する。
木製なので個体差があり過ぎる
のだ。
年輪の詰まった物が良いとは
限らないのがメープルの特徴
で、育った環境や日当たり等
様々な要因が加味されて材木
になって製品化された時に、
初めてその本来の質性が現出
するようだ。
この個体も最高の材に見うけ
られるが、キューの材として
はキューを作ってみないと、
木の本当の質は判断できない。
なので、ソリッドシャフト愛好
者たちは「最良の動態質性の
シャフト」を求める旅を誰も
がずっと続ける。
それは木に個体差あるがゆえだ。
高級カスタムキューが最良の
性質のシャフトを標準装備し
ているかというと、必ずしも
そうではなく、数ある材の中
から「アタリ」を標準品として
ビルダーたちは完成品にさせて
いる。
なので、アメリカンカスタムの
ビルダーの工房には「ボツ」に
なったシャフトがごまんとある。
また、マスプロメーカーの一般
市販品の廉価ラインのキューの
シャフトでも、極めて質性が
高いシャフトが標準装備されて
いた、という時代もあった。
個体差があるので何年頃とかは
特定できない。
よくハウスキューなどで抜群
の動きをするキューがたまに
あったりするのはそれだ。
いずれにしても、そういった
個体差から来る不確実性を
いくらか除去する事にハイテク
シャフトは貢献した。
さらには、そうした個体差の
捨象には化学素材を使って
人工的に材料を作るしかない。
現在はそうした化学素材の
シャフト(同一機種に個体差
無し)が一般化している。
カーボンシャフトがそれ。
これの登場により、材料に
よる個体差は消滅した。
あとは製作者や製品種別に
よる内部構造等の違いによる
差異が発生するだけだ。
カーボンシャフトの撞き味と
しては、伝達性が高いのか、
軽い力で手玉をよく運ぶ。
運びすぎる程に。
キューは棒なのでキューに
「パワー」などは存在しない。
伝達力と反発力(フォース)
がどうかであるかだけだ。
その伝達性がカーボンは高く、
木製シャフトよりも小さな
力で手玉の球体を移動させる。
私個人は木製独自の「手元に
沈む感触」が無いのでカーボン
は好きではないのだが、玉は
よく動く。
木製キューの場合、木部が
縮むというか圧縮されてたわ
む感触が手元で感知できる。
それが「撞き味」のうちの
主要部分を構成している。
だが、カーボンの場合は、棒
材のしなりしか感知できない。
それ自体が私の感性にはマッチ
しない。
これはもう好みだろう。
私自身は、玉を撞き始めた時
から現在までソリッドメープル
のシャフトのキューを好む。
先端が中空のハイテクシャフト
でさえ打感が好みでないので
一切使わない程だ。(ハイテク
シャフト自体は持っている)
私個人はソリッドメープルの
シャフトが好きである。
そのメープルシャフトの中でも
「あ、これは駄目。これは良」
という物がある。
例の個体差だ。
私はジョイントねじは5/16-18
インチ山にこだわっているので、
同規格のシャフトならば好きな
バットに装着できる。
基本は1バットに専属シャフト
2本でワンセットにしてあるが、
別なバットへの換装も可能だ。
木製キューは出来上がってみな
いと性能は判らない。
これはある種のリスクの意味も
含むので、そうした懸念の無い
カーボン製や個体差の少ない
ハイテクシャフトを選ぶのも
手だろう。
だが、私は多くのソリッドマン
たちのように、良質無垢木シャ
フトを求める旅人でいたいと
思っている。
これまで、「これ最高!」とい
う材を持つキューシャフトに
何度か出会った。
旅を続けていると、必ず出会い
があるのだ。
その出会いは至高の時を撞き手
にもたらす。
そして素晴らしい出会いに感謝
する。
豊かな時間がゆっくりと流れる。
最高なのだ。