渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

個人的ブックフェア 小説『狂い咲き正宗』、『おれは清麿』

2012年03月25日 | open

3月22日に買ってきた小説のうち、『迅風の刻』(津本陽)と
『狂い咲き正宗』(山本兼一)を読んでしまった。
出張の時は18時台に仕事を上がれるので、あとはホテルで
時間がたっぷりある。十分に読書が楽しめる。

『狂い咲き正宗』はかなり面白かった。
主人公光三郎は徳川将軍家の刀剣を管理する御腰物奉行の
旗本黒沢家の嫡男だったが、奉行である父と折り合いが悪くなり
家を飛び出した。なんだか他人のように思えない(笑)。
正宗のことで父親と口論になり、「出て行け」と言うからすぐに家を
飛び出したなんて、そんな俺みたいな奴、江戸時代にもいたんだ?
(って、これは小説の中のことですから>俺)
このあたりの設定は、『美味しんぼ』の海原雄山と士郎のようだし、
私の個人的な環境とも似ていて面白く読めた。

そして、主人公は武士を捨て、芝日陰町の刀屋「ちょうじ屋」に婿入りした。
芝日陰町とは、今でいうとJR新橋駅烏森口から南に歩いてすぐの
あたりで、私は以前の職場からも直近であり馴染みの土地だ。
幕末から明治にかけては古着の問屋が集まっていた場所で、
日陰町というのは江戸時代は通称であり、正式には芝口二丁目
から三丁目、さらにその南の源助町、露月町、柴井町、宇田川町
までの通り界隈を「日陰町通」と呼んでいた。日陰町が正式町名と
なるのは明治に入ってからだが、その後1932年に「新橋二丁目」
に変更になっている。

○ 日カゲ丁通リト云」とある部分の右が日陰町。右上の新町とある
あたりが現在のJR新橋駅だ。
私のかつての勤務地は左上の方の稲葉伊予守の屋敷跡にあった。
地図上面にある「御用屋敷」の通りは、現在は外堀通りとなっている。

現在の旧日陰町通り。


『狂い咲き正宗』は、短編小説を集めた作品集となってる。
主人公の元旗本で現刀屋の光三郎は、四谷正宗と呼ばれた
四谷に住む源清麿に弟子入りして刀屋の婿なのに刀鍛冶に
手を染めている。そして、江戸市中の刀剣をめぐる様々な
事件に巻き込まれていく。
武士を捨てた光三郎と刀工清麿たちが、権威を笠に着る侍
連中や金権で人を支配しようとする豪商たちに一泡噴かせる
物語が痛快だ。
だが、ここに稀代の詐欺師である剣相見の白石瑞祥が登場
する。
『狂い咲き正宗』の短編集はここで終わるが、作者山本兼一氏は
続編を書いた。
それが『黄金の太刀』だ。
これはまだ文庫化されていない。
『黄金の太刀』は短編集ではなく、長編のひとつの物語となっている。
それは、剣相見として旗本から一万両を盗んだ白石瑞祥を追って、
主人公光三郎と旗本の子息の田村庄五郎と、そして光三郎と
同じく清麿の仕事場にたむろする鍛冶平こと平次郎の三人が
全国を旅する、という物語に設えられている。
どうやら瑞祥は相州、美濃、山城、
大和、備前という古刀五カ伝の
土地を巡りながら作刀成就の
旅を続けているらしいことが分かり、
それを3人の若者が追跡することになったのだ。


連続作の前作に当たる『狂い咲き正宗』の読了後はいても立っても
いられない。

鳥取市内の書店を探しまくり、文庫化されていない単行本の
『黄金の太刀』を買い求めた。

一気に読みふけった。
藤沢文学にみられる情景描写があたかも
詩篇のごとく繊細に流れて
いく表現方法ではないので、ストーリー
中心に一気に読める作品が
山本作品の特徴だ。(『いっしん虎徹』のみは文学作品としても藤沢
作品に並ぶ仕上がりとなっている)

山本兼一作品は、文章上の表現を重視する日本文学としてではなく、
欧米のノベル
のような楽しめ方ができる。自ずと読む速度も速くなる。
『黄金の太刀』も一気に読んだ。追跡活劇だ。面白くない筈がない。

勢い余って、地元の書店に注文していた『おれは清麿』(山本兼一)
も鳥取の書店でみつけて購入し、一気に読んだ。
う~む。。。今までの世間の清麿解釈とは異なる新解釈で人物像を
作っている。
信州松代藩での荒試しが最後のクライマックスとなっている。
ただし、大慶直胤(たいけいなおたね)を「直胤は江戸にいて列席せず」
としているが、確か史実では直胤は試刀会の10年ほど前に死亡して
いたと私は記憶しているが・・・・。
最期、清麿は厠で腹を切って死ぬ。これは事実だ。
だが、山本氏はこれにも新解釈を以って作品として仕上げている。
『おれは清麿』はお薦め。
ただ、文学作品としては『いっしん虎徹』の方が胸に迫ったかな。
ポケットノベルとしては『狂い咲き正宗』と『黄金の太刀』の連作が
面白い。こちらの連作に登場する源清麿は晩年の清麿だが、死ぬ
までにはあと
数年ある。清麿が死んだら大きく設定が傾くが、どうにか
「刀屋光三郎」で
シリーズ化してほしい作品だ。

それにしても、私にはなんだか他人事とは思えない主人公設定やキャラ、
無関係とは思えない名称や言葉や漢字が数多く出てきて面白かった。
日陰町、黒沢、田村、庄・・・。
しかし、唯一どうにも馴染めないのが主人公が婿入りした先の妻の
キャラで、これが異様な焼餅焼きだ。世の中そうした女を可愛いと思う
男が多いのだろうが、こいつだけぁ、安物の時代劇のようでいけねぇ。

それに、俺自身がそういう女がでぇきれぇだし、これっぽっちも可愛いとも
良い女だろうとも思わない。清麿の思い人のとくさんや虎徹の妻のゆきさん
のような男を包み込むような女がいいや、俺ぁ。あるいは『美味しんぼ』の
ゆう子さんなんて最高だね。士郎にはもったいねーよ。
世の中、焼餅焼きの女をなだめるのが嬉しかったりする男が多いようだが、
山本先生もそのクチなんかね。作品で光三郎のかかあの設定を、しかも
極度の嫌悪感を呼ぶくらいの焼餅焼き女にしてるけど、あれぁいただけない。
でもって、光三郎のかかあは、亭主が御用で出かけるたびに焼餅を焼く。
それも生半可じゃない。
それを亭主がちょいとくすぐってなだめて肌を重ねるとゴロニャンとなる。
まったく魅力的な女には思えない。
だいたいからして、焼餅焼きなんてなぁ、結局はてめえのこ
とが可愛いだけ
だからね。蓋を開けるってーと、ちっとも
可愛くねぇんだよ、そいつぁ。

ついでに、他の本も買ったぜ。

『郷土刀の系譜』は全国津々浦々の地方刀についてまとめてある。
安芸国大山鍛冶のことを書いているのはこの書籍くらいなので
ありがたい。昭和43年出版の復刻版だ。
『氷川清話』は勝の狸オヤジが明治時代に語った昔話だ。
話半分で読まないとならないね(笑)
『藤沢周平と山本周五郎』はパラパラッとめくって、佐高と高橋両氏の
対談が面白いので購入した。

このうち2冊は読んじまったから、22日(木)に買ったうちの残りの小説を
ちびりちびりと読むことにするよ。
(週末の東京行きまでに全部読んじまったらどうするべ・・・)