日本の伝統的な文様に「猪目
(いのめ)」というものがある。
ハート形の模様で、この文様は
歴史が非常に古い。奈良時代な
らず古墳時代の倒卵形鍔にもみ
られ、日本の歴史の中で最も古
い文様のグループであるといえ
る。器具などの飾り文様として
使われたこの日本のハートマーク
は刀装具でも鍔などに透かし技法
としてあしらわれることが多い。
猪目があしらわれる器物として
は建築装飾の懸魚(げぎょ)が
ある。
懸魚とは神社仏閣などに多く用い
られる装飾板のことで、掛魚とも記
すこともあり、「ゲギョ」と読んだ
り「ケンギョ」と読んだりする。
大抵は彫刻によって表現されてい
て、破風(はふ)板の下に装飾の
ために取りつけられる。
懸魚は単なる装飾としてだけでは
なく、建築の部分板としては物理
的な意味も持つ。
それは屋根の重要部分である傾斜
の合流点(左右から合わさるので
建築力学で重要な部分となる)の
部分を風から守り、同時に棟木の
端を隠しつつ守るという役目がある。
日本の木造建築自体が大陸渡来の
技術であるので、当然懸魚も発祥
地は中国なのであるが、なぜ屋根
に懸けるのが魚であるのかという
と、防火祈念から水に関係する魚
を懸けて「水をかける」を念じたと
いうことらしい。大陸中国の地方
集落では今も屋根に魚を模した板
を懸ける風習が残っているという。
日本でも、物理的な役目よりも、
こちらの方が意味合いが強かった
のではなかろうか。
懸魚には猪目の他にも梅鉢や蕪
(かぶら)などもあしらわれたり
する。
懸魚の意匠の種類は4000種ほどが
確認されている。
梅鉢
蕪(かぶら)と六葉(ろくよう)
板部分が蕪で突起物が六葉。
六葉の中心の突起物を「樽の口」
と呼ぶ。樽酒の栓を模したもので、
水を注ぎだす口として防火の意味
が表現されている。
樽の口の周囲の菊文様部分を菊座
と呼ぶ。
三花(みつばな)
三花は蕪や猪目の変形である
(京都大徳寺山門)
私の備前長船の鍔は猪の目に似た
スイカズラの文様だ。猪の目との
含意は同一と思われる。
猪目は刀装具に古墳時代から使用
されている。
大陸建築の懸魚となんらかの関係
があるかもしれない。
鍔などにも猪目文様は使われるが、
多くはくっきりとしたハート形だ。
鍔にハート形の猪目を施す製作者
の意図は懸魚に多く使われる猪目の
「火を消す」というところを想定
していたのかもしれない。
打ちかかる火の粉をどうするかは、
武士にとって重大な身の振り方だ。
猪目を四方に配し、四方から打ち
かかる火の粉を払うという作者の
願いが込められているように感じ
る。
鉄鍔。縦横72ミリ、厚み4ミリ、
重さ90グラム。
ただし、この私の鍔のデザインは
猪目ではなく、5世紀頃の古墳から
よく出土する三葉環式大刀(たち)
に施された忍冬(ニンドウ/スイ
カズラ)の唐草模様が後世まで継承
されたものであるという可能性の
ほうが高い。
となると、忍という文字が「心の
上に刃を置く」であるので、これ
もまた武士の心構えを示した意匠
なのであろう。
この私の鍔は「変わり猪目」と
当初思っていたが、多角的に判断
するに、「忍冬唐草文様」である
と思われる。
(三葉環頭大刀/5世紀)
刀剣本体もそうだが、刀装具の
意匠は、このように単なるデザ
インではなく、そこに何らかの
意図なり画題なりが必ず含まれ
ている。
梅の花を見て「あ、花が綺麗だ
な」だけで日本人は西欧人のよう
に終わらない。
内から湧き上がる感性の発露と
して、花を見て歌を詠み、季節
に思いを巡らす。山野の香りに
思いを巡らす。風のささやきに
耳を傾ける。人の心に思いを寄
せる。
そうした情念というものは、日本
人の一番日本人らしい部分だと
私には思える。
即物的に文物を見ない。作られた
物には作った人の情念が映ってい
る。
それは技法という匠の技の表現に
よって後世に残され、伝えられて
いく。
日本だなぁ、と私はひとりごちたり
するのである。
日本人が古代から愛した猪目と
いう文様。
猪目、それは願いが込められた
ハートのマークだ。
これからも、日本人の心を象徴
する文様であってほしいと思う。
地元三原の友人が愛用するナイフが刃こぼれした。
地元では私以外に二名が私のナイフレビューを見て同じナイフを買い求めて
所持し、仕事での段ボール処理や荷解き、趣味の釣りなどで使いまくっている
そうだ。夏のキャンプでもそのナイフは活躍したらしい。
友人のナイフを見せてもらったら、とても使い込まれた用の美が見られて、
なんだか嬉しくなった。
古い日本刀を徒に物斬りに使うのは如何なものかと思うが、ナイフは実用品
なので使うに限る。特に安価で供給されるファクトリーナイフは実用こそが
大前提であるので、使ってあげてこそナンボだと私は思う。友人の使い倒された
ナイフを見て、私はニヤリとなった。
日本刀を初心者の方や「どうしても刀が欲しいけど予算の関係で」という人たちの
ために入手し易い破格値設定で出血(という言葉は物が物だけに使わないが)販売
している刀屋さんの刀を「安価だから丁度いいや」と物斬りに使うために買い求める
のは、私個人としてはどうかやめてもらいたいという気持ちがある。そんな目的の
ために刀屋さんは良心価格で提供しているのではないからだ。
「そんな刀屋があるのか」と問われれば、ある。それを察知できるかできないかは、
ひとえに刀に接する側の問題に属すると私は考えている。
刀が泣くか泣かないか、儲けを超えた刀屋の思いがつかめるかつかめないか、
それは所持する側にかかっている。
武用に使う刀かそうでないかの線引きは難しい問題を含むが、日本刀を所持する
方々はよくよく吟味してほしいと願う。
一方、ナイフは基本的にすべて実用だと私は思っている。
非常時にはラブレスのナイフでも缶切り代わりに私は使うだろう。
友人のナイフも実用に供されている。
ただ、梱包の荷を解いた時なのか、はたまた何かの拍子に硬い物を切断したのか、
刀でいうとフクラから物打(ものうち)の部分にかけて二か所刃こぼれができていた。
詳細に見たら、厳密にいうと刃こぼれではなく「刃まくれ」だった。
使い込まれているので刃先も甘くなり、ティッシュがよく切れない。
私が研いで刃をつけてあげることにした。
ナイフを預かってきたので昨晩研いだ。
砥石はキングの赤レンガの1000番だ。
友人に刃付けの希望を訊いたら、木工工作用ではないとのことなので、
荒めの1000番でよいだろうと判断して了解を得た。
私の赤レンガ。
刃まくれの食い込み疵二か所を除去するためブレードはやや細くなったが、
完全にまくれ疵はとれた。
刃先だけを研ぐと小刃の幅がそこだけ狭く(というかなくなる程)なので、左右とも
元から先まで新たに小刃部分を新規に手研ぎで作り直す成形となった。
元から先まで白く光っている部分が小刃部分。
そこそこに友人が希望する刃付けはできたと思う。
炭素鋼でなく、マルテンサイト系ステンレス材でも水砥石で刃が付く。
私はオイルストーンではなく、すべて天然もしくは人造の水砥石で
刃物を研いでいる。
正しいか誤りかはわからないが、ナイフもすべて水砥石で刃をつける。
刃が付くのだから、それでいいと私自身は思っている。
オイルストーンはタッチアップの時以外は使わない。
水砥石だけでよく切れる刃物にできるのだから、これでいいのだ・・・・・ろう(^^;
メンテナンスとしてナイフの可動部分にはこのオイルを含浸させておきました。
発動機のほうではなく楽器屋としてのヤマハ製の楽器用オイル。
サックスやトロンボーンやトランペットの可動部分用の専用潤滑油です。
バルブオイルという名前のようです。100%化学合成のオイルなり。
ヤマハのバイク用みたいだね(笑)。
ヤマハの純正2ストオイル(青)って結構品質が良かったのですよ。
私のRZ350とRZ250Rにはヤマハ純正ではなくベルレイを、
レーサーTZ250にはカストロールを使ってましたけど(^^;
街乗り用は、俺による心臓や肺や器官のいじくりではペンゾールは
あまり良好な結果が出なかった。燃焼効率とポート研磨理論等がかみ
合っていなかったのかも知れない。
レース用のカストロなどの植物油は酸化するので1回で使い切りだけど、
こちらは心臓周りを腰下まで毎回割るから問題ないのよ。燃焼性の問題から、
サーキットでは植物油の方が当時は良かった。
この画像のオイルは楽器店で購入した楽器用です。大きさは目薬の
ボトルよりちょっとでかいくらい(笑)。それ考えると、レーシングオイル
よりも超高い~(笑)。
18年間ほったらかしのこの共柄小刀、火造りしたままだから完成させないとなぁ。
なまして常温で組織が安定する状態にしてあるから置いてても支障はないけど。
(折り返し鍛錬は二代目小林康宏)