今日のうた

思いつくままに書いています

響子

2021-06-13 11:59:23 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
若い頃はあんなに眠かったのに、今は朝の5時がくるのが待ち遠しい。
時間は有り余るほどあるが、PCに向かったり読書をしたりすると
すぐに眼が疲れて頭が痛くなる。
1日が長すぎる。4時間程をどなたかにさし上げたいくらいだ。
それでいて気がつくとすぐに土曜日が来ている。

老後をどうやって過ごしたらいいのか、参考になる人が身近にいない。
母は62歳で亡くなっているが、それより9歳も長生きした私には
参考にならない。
父は若い頃から商売は母任せで、数学をしたり本を読んだり
短歌をしたりしていたので、亡くなる73歳のいつからが
老後だったのか分からない。

音楽も聴いたし何をしようか悶々としていたところ、
YOU TUBEで向田邦子のドラマを見つけた。
これが脳裏に焼き付いて離れないほど強烈なものだった。

「響子」
「向田邦子新春シリーズ」とあるのが、こんな濃厚なドラマを
TBSは新春早々家族が観ている茶の間に流せたのだろうか。
今だったら、BPO(放送倫理・番組向上機構)が黙ってはいないだろう。
脚本・筒井ともみ、監督・久世光彦(くぜてるひこ)。
石材店が舞台だが、みな石に取りつかれている。
主人公の響子は石を打つ時の音から付けられた。
響子役は田中裕子、その夫は労咳(ろうがい)で寝たきりだが、
この夫役が筒井康隆だったのには驚いた。
母は加藤治子、父方の祖父は森繁久彌、そしてアル中の職人に小林薫。

母と祖父は通じている。祖父も寝たきりで母は枕元に正座している。
その時の祖父の手の動きと目の表情、そして母の着物のしわが
やや動き、母は恍惚とした表情を浮かべる。
動きはこれだけで数分間の出来事だ。たったこれだけのことで、
永年の二人の関係を赤裸々に描いている。

田中裕子と小林薫も石に取りつかれた二人だ。
思い余って石を口に含んだ田中は、その石を小林に口移しにする。
こちらも森繁・加藤に負けず劣らず、ショッキングなシーンだ。

日常の中にひそむ情念をこのドラマは見事に描き切っている。
映画「天城越え」の田中裕子はよかったが、このドラマでも
他の追随を許さない素晴らしさだ。

田中裕子、黒木華、松坂桃李、二宮和也、自己主張をし過ぎない
美しい顔の役者は、どんな役でも様になると思った。

追記1
「岸辺のアルバム」もYOU TUBEで観られることが分かりました。
(2021年6月14日 記)

追記2
向田邦子原作、久世光彦監督・ディレクター、岸惠子主演のドラマ
「言うなかれ、君よ別れを」をYOU TUBEで観る。
こんな素晴らしいドラマをテレビで放送していたことに、ただただ驚く。
小林薫がこれまでとは違ったいい味を出していた。
状況劇場をやめるという小林を引き止めるために、唐十郎が包丁を持って
説得に行ったという逸話も頷ける。
(2021年7月3日 記)

追記3
若い頃に観たかった映画に「忍ぶ川」がある。
当時は照れがあって映画館に行けなかった。
今は便利だ。昔の映画をDVDを借りて観ることができる。
三浦哲郎原作、熊井啓監督、栗原小巻・加藤剛主演。
熊井監督だけに社会性のある作品だ。

私が小さい頃には、住処のない一家がお寺に住んでいた。
家賃の代わりに酒盛りの際、飲食を提供する手伝いをしていた。
割烹「忍ぶ川」で働く栗原の父親も病気で、故郷の神社にひとり
住まわせてもらっている。そして栗原が仕送りをしている。
当時は貧しくても、今よりも情があったように思う。

「純愛」という言葉が恥ずかしくなく言える映画だ。
シャンシャンと鈴を鳴らしながら、雪の中を馬ぞりがやってくる。
その音に障子を開けて二人で見るシーンは、想像以上に美しかった。
バレリーナを目指していたという栗原の体は、神々しくさえあった。
その後、栗原は演劇に移っていったようだが、もっと映画が観たかった。
(2021年7月28日 記)


コメント
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