以前から子どものための本で気になっていたことがあります。それは、ダイジェスト版の存在です。あるいは、原作を書き変えたものです。
原作の書き変えは、様々な理由があるのでしょう。たとえば、残酷な描写を避けたものがあります。昔話などは、元々、毒のあるものが少なくありません。日本の昔話でも、「かちかちやま」は、子どものための絵本などは、内容が大幅に書き帰られています。本来は、お爺さんは、タヌキに騙されておばあさんの肉を、タヌキ汁だと信じて食べてしまう訳ですが、この部分がカットされることがあるようです。江戸時代の絵本では、流しの下にお婆さんの骨が描きこまれています。
ダイジェスト版は、たとえば、西遊記のように長くて難解な部分を、子ども用に書き換えたものがあります。スィフトのガリバー旅行記も、子ども用には、リリパット国(小人の国)のエピソードが一部書かれることが多かったようです。原作は、社会風刺や、人間に対するシニカルな見方に貫かれたものですが、子どものための絵本になると、全く別の作品と化してしまいます。
「不思議の国のアリス」をはじめとして、福音館では子どものための完訳本が出版されています。ベルヌの作品もありました。こうした出版物は、大人が読んでも十分に意味のあるものです。子どもだからといって、安易な手抜きのような作品化は避けた方が良いのでしょうか。
さて、「アリスのふしぎな夢」(The Nersery ”Alice")は、「不思議の国のアリス」を、原作者自らが、幼い子どものために描き変えた作品です。こうした形でのダイジェスト版なら、問題はないでしょう。また、作品のコアとなる部分を作者が語っていることが参考になります。
興味深い作品でした。元の話と併せて読むのも、一興かも知れませんね。